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□140字 9(ロイアイ記念企画)
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お題からネタをもらって140字!
『はずさない、こぼれた、一口(ひとくち)』


「せっかくの無礼講、羽目をはずさないなんてつまらないじゃないでスか」そう言ってトロンとした酔眼のハボックはペアストローなるものに口をつけた。「こら、調子にのるな!」「あら、少尉もストロベリーキャベツ味噌ジュース好きなの?」「一口だけなら平気です」酔っ払った部下達の酒癖が悪すぎる。

頭を抱えた私を余所にオリジナルミックスジュースが売りの飲み屋で始まった『ホークアイ中尉昇進祝い』なるものは態のよいただ酒飲み放題の集いになりつつある。「あれ?吸えねー」「タイミングを一緒に合わせないと駄目よ」副官のオーダーした赤黒い飲み物を二人仲良く飲もうとしている…私の目の前で

「あ、すまん。手がスベッター」白々しく邪魔をしてやろうとカウンターの上にグラスを滑らす。「うわー大佐、やめて下さいよー!」こぼれたパイナップルイカスミジュース(彼女のお勧め)がヒットしたハボックは文句をいいながら御手洗いに消えた。ざまあみろ。「一口飲んでから行けばいいのに…」何?


「ちゅ、中尉。君は…」一体何を考えているんだ!と言おうとすると、「ふふ…これ、カップルみたいで楽しそうかなって…思いませんか?」ほろ酔いの彼女はストローをつまむと可愛らしく小首を傾げる。「…私がお相手しても構わないかな?」「ええ、どうぞ」どうやら相手は誰でも良かったようだ。ふう〜

ジュースをベースにしたアルコール度数が高い飲み物は回りが早いらしい…彼女の隣席に私が座っていないと危険だ。それにしてもガードが堅い彼女がまさかな…「ハートの形に捩るのは難しいでしょうねー」グラスに刺さったストロベリーを啄むピンク色の彼女の唇。さて、魅力的なシチュだがジュースがな…

客のセンスが最悪だと恐ろしいことになる。食べ合わせを考えた定番の品を扱うのが好ましい。私は新しくトマトベースにウォッカ入りを頼もうとしたのだが…「中尉、ストロベリーが引っ掛かるだろう?代わりの物を」「味噌はお嫌いですか?」「いや、好き嫌いじゃないんだよ」限度という物があるだろう!

「すみません。新しい組み合わせを試してみたかったんです」彼女は伏し目がちに語る。冒険をしただけか…「大丈夫、君がいつも頼んでいるものを貰ってくるよ」だから、これは忘れてくれ中尉。ヘルシーが身体によいという話は鵜呑みにするな、次回は美味しい焼肉が食べれる店に連れていかねばならぬな…

「あー、ホークアイだがいつものを」ドリアンミックスJ…彼女はどんなジュースを飲んでいるんだ!部下の話ではタイプライターで打ち出した常連客のメニュー表があるらしい。それを見せたまえと言えば、顧客の個人情報は見せることが出来ない、と尻ポケットに競馬新聞を捩じ込んでいる店主は渋る。ちっ

勿論、このまま諦めるわけにはいかない。「いや、部下とつまらない賭事をしてしまってね」「へぇ、かけを?」食いついてきたな…「貴店では珍しい野菜ベースを謳い文句にしているが果物も扱っているじゃないか。所詮、他店と変わらない品揃えに決まっている!とかけた私の勝ち―」「そりゃあ、誤解だ」

「果実もちょびっとありますが殆どの注文は野菜でさぁ」銀時計をチラリと見せて、「言葉だけでは信用ならんな。証明しようがないなら、かけは私の勝ち―」「いや、旦那の負けだね」スキンヘッドにゲジゲシ眉毛の男は引き出しに手をかけながらニヤリと笑う。「かけてもいいが無駄なことはよしましょう」

銀時計が効いたのか。特別に…と注文を記した紙束を見せてもらう。「ゴーヤ、人面人参、悪魔の木の実…」滋養強壮剤みたいなものばかりじゃないか。彼女のチョイスはまだましだったようだ。注文履歴から人間が飲めそうな野菜を選択して…「協力、感謝する」「ええ、これからもご贔屓にマスタング大佐」

真っ赤なジュースを注文してもどると、彼女の隣に番犬代わりに置いておいたハヤテ号が眠ってしまった主人を心配するように寄り添っていた。「すまんな。ハヤテ号」まだぬいぐるみのような犬を抱き抱えて、スカーフに包み中を除くなと命令して近くにいたブレダに渡した。なに猫だと思えば大丈夫だろう。  
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