FA

□140字 10赤鼻の彼
2ページ/5ページ


…………………………

「おかしい…」「いいんじゃないですか?家庭の事情もありますし」毎年、通り過ぎる丘の上のボロ屋敷。女の子がいるはずなんだと言われても…このロリコンサンタ…しつこいな。「あんたバレたらヤバイっすよ!?」「構わん」サンタは二つある目玉のひとつと交換するように、薔薇の花を一輪…錬成した。

サンタが持つ二つ名の如く、燃える火のように紅い薔薇の花。あーあ、やっちまった。「目録以外に勝手な錬成するなんて、イカレてるぜ」「今さら何を」「あなたは誰?」黒いマントに青い帽子、おまけに眼帯付きの来訪者を不審者を見るように見つめる鳶色の瞳をした天使。この子はサンタを知らないらしい

「…ご贔屓の花屋です」ちらりと浮かべた憂いを隠し、もっともらしいことを男は言った。「凄い…これ、リザの花なのね?」贈り物は少女――リザが父親にねだっていた花らしい。誓約外の力は一晩しか持たないはずなのに、一時の想い出の為、安くはない代価を頓着なく払う男に興味を持った始まりの日――

「毎回同じもん欲しがるなんて花屋と勘違いしてるんじゃないですか?」「それでもいいさ。彼女が望むなら」花屋だと言って贈り物を嬉しそうに運ぶ月日が五つめの冬を過ぎた頃、彼女にサンタは必要無くなったらしい…最後に届けたのは墓石に添える花束。春を待たずにひっそりと、父親が亡くなっていた―

次の年から丘の上を飛ぶこともなくなった。もう少女が住んではいないからだ。「引越したんでスかね」「サンタは必要なくなったのだろう」誰でもいつかは登る。大人になる階段を―そう言って仕事に戻る男の背中が寂しげに見えたのは気のせいだろうか。「やせ我慢しちまって…」夢を届けるサンタの孤独。

「…特別な人だと思っていたのに諦めるんでスか」「公私混同していたら身がもたない。それに届け先の乙女に恋しているのはお前だろう?ハボック」「お、俺はちょっと気になって次の次の年に覗きに行っただけっス!」痛い言葉だ。俺は思わぬ逆襲をくらっちまう。あんたと一緒にすんな。ロリコンサンタ!


サンタとトナカイがロリコンだなんて!チクられて半期に一度の査定に引っかかった日には、おまんまの食いっぱぐれになりかねない!「この件は秘密にしましょうね…」「裏切りは許さないからな」ううっ…鬼の首をとったと思ったのに〜こうして俺とマスタングサンタは共通の秘密を持つ運命共同体になった

ところが独りぼっちのサンタに運命の女神がウインクしたみたいで…(俺じゃなかった)サンタ学校の校長ジングル・ベル先生がよいよいの年寄りになって隠居する記念パーティーに招かれ久々に学校に行ったおりに、俺はあの子を見つけちまった。凛とした鳶色の瞳が魅力的な美しく成長した。花束の少女を―

「ちょっと戻って!」あっ、いけねぇ…ひとブロック過ぎちまった。「私だけで行くから貴方は休んでいなさい」「了解…」仕事中だろう!なに感傷的になってんだ。パンっと顔を叩くと痕がついて痛い…結局、母方の親戚に引き取られた彼女はサンタ学校に通い、欠員補充もあって最年少のサンタになった。

昼飯を食べ仕事に戻り、最後の家を飛び立つと、空には真ん丸い月が出ている。「月には兎がいて…」「あら、素敵ね」思い出ついでに俺も自分の話を彼女に聞いて貰った。マスタングサンタには笑われそうで言えなかったけれど。「…いつか月まで飛んでみたいっていうのが、俺の夢なんです」限界への挑戦―

ユニコーンじゃあるまいし、乙女に恋したり月まで飛びたいなんて言うトナカイはおかしいのかもしれない。でも、いいじゃないか。誰もやめろとは言わない、サンタとトナカイには可能性があるってジングル・ベル先生が言ってた。(…いや、マスタングサンタかも)夢を運ぶ仕事人は夢追いびとなんだよ。


あれ?俺も記憶力が怪しくなってきた。まだ50と少しなのに…危ない危ない。「じゃあ、明日から新型のソリで」「マスタングサンタに宜しくね」あの人を拾ってから迎えにいく段取りをつけて別れる。明日から二人分の安全が俺の細い肩にかかると身を引き締める。赤鼻を笑わないサンタはあんた達だけだから
 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ