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□バラの下で
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「困ります、どちらか片方は不寝番を」「では私が」「いいえ、大佐は保護対象ですからこちらの寝台でおやすみください」素早く毛布と枕を押し付けた。「それにあの言葉も…訂正してください」もう一度復唱するために脳裏に焼きついた言葉を探す。彼が投げやりに言いはなった一言。一緒に寝るかーーと。


キュッと体が強ばる。軽口も今朝の出来事と重なってしまえば次の言葉が続かない「どうかしたのか?」「何でもないことなんです…いえ、ハボック少尉に相談するつもりで」私一人で対処できそうもなくて…と私と同じような体験をしたことを話していた同僚の顔が浮かんできていた。頼りがいはないけれど。


「ハボックだと?」その名に大佐は気分を害した声を出す「何があったんだ」私は今朝の光景がよみがえってきて…寝起きで寝ぼけた彼にのし掛かるようにして、押し倒されていた。身体が動かず何もできなくなる。抱きしめられてからは私も万事休すで、思わず呟いていた。あの人の名を…マスタングさんーー


「判った、失言は取り消そう。同僚に助勢を請うほどの…」「違うんです」朝の出来事が…と例の話をして「お恥ずかしいことですが、何もできませんでした」不甲斐ないことだから。時々部下でなくなる私に、副官なら慌てず騒がず対処しろと、いつもの言葉を掛けて欲しいと願ってしまう自分自身が嫌だった。


彼にこんなことを話しても意味がないもので、同僚と対策案を話し合えば解決する話し。昔のような関係にはもう、戻れないのだから「…やめてくれないか」「はい?」「そんな顔をしていては…襲われるぞ。君」「えっ…」その顔で少尉には近づかないほうがいいなんて、そんなに酷い顔をしているのかしら。


「だいたいなんて相談するんだ君は?男に抱きつかれて動けなかったとでも言うつもりなのか」「あ…それは」「それでは頼る場所が違うだろう。つまり、殴るなり撃ち殺すなり抵抗すればいい」そんなこと出来るわけないのに「君にはその資格があるんだから…」出口がない気持ちに答えを直ぐにだせなかった。
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