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□140字 4(四季〜)
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行く年
..仔リザとお弟子さんで年越しの話。


バラバラと台所の窓の外から音がする。「あられかしら?」独り言を呟いたつもりだったのに「残念!つらら落としをしていたんだよ」勝手口から防寒着姿のマスタングさんが現れた。「風邪引いちゃいますよ…」「君に当たったら危ないだろう?」えっ…私の為に?今年は優しいお弟子さんも一緒に年を越す。

「バターはまだあるの?」「あの…少しだけ」買い物に付き合ってくれたおかげで、一度の買い出しで用事が足りてしまった。「缶詰も持つよ」「そんな…重いですよ」「平気、嘘だと思うなら丘の上まで走って見せようか?」もう、ポインセチアの花だけを抱えて雪道を見失うまいと黒髪を追いかけるなんて!

「きゃっ…!」足が縺れて転んでしまった。ああ、花束だけは無事で良かった…「リザ!」助け起こされて覗き込まれた顔面雪まみれの姿が恥ずかしい。「馬鹿、顔に傷がついたらどうするんだ!」「でも、花」つり上がった切れ長の瞳が恐くて…「君は女の子なんだから」だけど頬に当たる掌と声音は優しい。

白いパンを厚切りにしてハムを挟む「マスタングさんは新年、一緒に過ごすひといないんですか?」「年の瀬はお店が忙しいからね」雪掻きの手伝いをして来いと追い出されてしまった。なんて…「あっ駄目です!」ハムのつまみ食いだ。取り替えそうとした指先が唇に触れる「こっちも食べていいの?」えっ…

「バターがついてるから」「だ、駄目です…」手首を掴まれて背中が壁にあたる。「震えている?」煙草の匂いがする。距離が近くて息が出来ない…「ちょっ、リザ?」へたりと座り込んでしまった。心臓がドキドキして変な気分のままだ「すみません。私、風邪引いたみたいで」どうしよう…夕食作れるかな。

卵と小麦粉で下準備をしていたメイン料理をオーブンから出して、山盛りの空豆に温めたチーズをかけた。熱い生姜ティーを飲んだから大丈夫、風邪じゃない。風邪じゃ…「くしゅんっ」寒い。あっ…ふわりと、暖かいナイトガウンが肩に掛かる。「薄着で動くと身体を冷やすだろ」くしゃりと髪を撫でられた。

「花火ですか?」「余り物さ。師匠はばか騒ぎをしないなら、やってもいいって…」先日、カウントダウンをしたことがない話をしたからかしら。「マッチ無しで火をつけられたらなぁ」庭先で赤い紙縒りに火をつけようと、湿気たマッチにぼやく姿が可愛い。「風があるからです」風除けにとそっと掌をかざす


 
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