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□140字 4(四季〜)
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2015ロイアイ記念文
「文目(あやめ)も知らぬ恋を」

1
――美味しいお茶の飲める時間に君の笑顔があれば、もう何も欲しいものはない――ふと古い記憶が甦る。そんな穏やかな歳月を君と重ねて行けたらと思うのは、業が深い身には罪だろうか。この気持ちは流行り病みたいなものだから、と笑っていたのに。どうやらそうではないことに気付いてしまったから。


2
「起床した朝にお茶を飲み。昼食のお茶は君と共に、午後の穏やかな一時も離れず過ごして一日の終わりにも一杯のお茶を眠りに落ちる前に二人で味わう…そんな一日も悪くはないと思わないかね」昼を少し過ぎた執務室で書類片手に彼女に語れば、「お茶のお相手は余所の方とどうぞ」と君の返事は素っ気ない

3
「それに先ほど淹れてきたコーヒーを一緒に飲んでいるでしょう」「これではな。イメージしたお茶と…」愛の囁きも彼女の心には響かないようで、冷め始めた飲み物と同じく君は冷たい。いや、仕事を優先するのは当然か。これ以上の話題は続きそうも…「私は好きですよ。慣れ親しんだ味がしますから」ん?
4
「朝にコーヒーを飲み。昼食のコーヒーも貴方と共に、午後の穏やかな一時も離れず過ごし一日の終わりにも一杯のコーヒーを残業に入る前に二人で味わう…そんな毎日も悪くはないと思いませんか?」書類を棚に並べながらいつになく彼女は多弁だった。私がその真意を計りかね返答の言葉選びに困るほどに


5
「大佐?」「君が…君が良いというなら我慢するか」ただし残業は頂けないと、最後の一文は仕事帰りのコーヒーだろうと変更を請う「…はい」悪くはないらしい。理想の形にはなりはしないがソファに座り書類をまとめる彼女と二人、不味いコーヒーを啜る昼下がり。隣には君の温かな笑顔があればもう何も―

 
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