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□140字 3(海に行こう。)
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「南の海に美女が居ないとはけしからん!」騙された気分だ。「海は広いっスね〜」「観賞するより泳いで来たらどうだ?」「俺、泳げないんで」二日目、部下達はバシャバシャと波打ち際で海に浸かるだけだ。海水浴に来た意味がないな。「そう腐らんで下さいよ、大佐。色気より食い気はどうですか?」ん?

縞模様の果実を抱えたアロハ姿のブレダ中佐が「西瓜割りで親密に」と誘う興味をひくイベントより私は遊泳がしたかった。海に入る、とハボックに告げて行く。「独りで遠くまで行かないで下さいね〜」途中拾った貝を海藻に結んで身につけると、「大海原に飛び出すか!」みるみる浜辺が遠くなって行く――

ぺっ、と塩辛い海水を吐き出す。いや、危ない所だった…丁度海ガメが一匹回遊していたので錬金術で絡めとり、無事に砂浜に帰還できたから事無きを得たものの。あのまま溺れていたら国家にとっての大損失だった。皆が心配するから今は黙ってほとぼりが醒めた頃にとっておきの武勇伝として話してやろう。


「なんだ、割れてしまっているじゃないか!?」びしょ濡れになりながら戻るとすでにイベントは終わり、車座になってハボック達が果実を仲良く頂いている所だった。「大佐、遅かったッスね〜人魚にでも誘惑されたんでスか?」馬鹿者!ピンチに救援に来るべき部下がいないから私は自力で生還したんだぞ。

「それより早く、タオルと服を寄越せ!」副官に見つかるまえに身支度を整えてしまわないと…「えっ!?そんな…人前で!止めて下さいよー。あーー!」「馬鹿者!アロハシャツを借りただけだろう!?」『ぶり大根』とプリントされた趣味の悪いTシャツ姿で身悶えする。部下の小芝居にはつきあいきれん。

「下半身は駄目っス!!」サイズが近い奴に服を譲れ、と声をかけると生意気にも拒否してきた。「代わりにコートを着ていればよいだろう?」「あんた、俺に変質者になれと言うんですか!?」「上官命令だ」「なっ、横暴な!」諦めが悪い部下に手を焼く。「閣下!…海に入ったんですか!?」しまった…


「し、塩焼きそばの具材を調達しようとな…」理由を取り繕うと必死に弁解に徹した。「そうですね。海鮮は滅多に頂けませんし…エビや魚ですか?」「あーそれは、だな…」釣果を期待されても土産など何もない。「か、亀が…」「まあ、海ガメを!」「いや、違う!」「…」渋々砂浜で拾った貝を手渡した。

「思い出にどうかな?」「…私にですか」日頃、彼女に形に残る贈り物を渡すことは皆無だった。さすがに拾った貝では嬉しくないよな。「真珠じゃなくてすまんな」「いいえ、嬉しいです」「大尉…」付属のワカメを握りしめて…「明日の朝は海藻スープにしましょうね」ああ、朝食用にか…「た、楽しみだ」

「私も参加したかった…」厚手の毛布を体に巻き西瓜を食す。「君の水着姿も見れなかった…」「…馬鹿…ですね」背中合わせに座る彼女の声はこそばゆい。「そうだ、次回は貸し切り露天風呂に行こう!君は照れ屋だから密室で」「本当に馬鹿…残念です」マズイ…怒気を含む声音を耳にして物凄く反省した。 
 
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