FA

□140字 2(カブと中尉)
2ページ/10ページ


「う〜む」蕪の報告書をガン見して大佐が唸っていた。「まずいな…」「あの赤蕪もありまスよ」「判っている」このひとが中尉の言うこと聞いていればな〜。「君はどう思う?」「初動判断のミスは致命的になります。故に補佐としての範囲内で必要とあらば、事前に対処するよう務めております。ですが…」

「最終的な判断は大佐に一任しておりますから」さらに仏心をだすからだ、となじるように言われた大佐はぐうの音も出ない。あの時彼女の進言を採用しなかったこのひとが悪いよな。うん。死と紙一重の実戦を経験し続けた軍人は第六感が鋭くなるという。彼女はついに予知能力まで身に付けてしまったのか?

「ほんとに、あの後デートだからってさっさと直帰したかったんでしょうが、そのせいで今俺達は…」「馬鹿!」何故か焦っている大佐にぺちんとファイルで叩かれた。カウンターの差を道具で補うなんて信じらんねぇな。可愛い部下に暴力を振るうか?普通!中尉だって咎めるような視線であんたを見てるぞ。


「ひでぇ〜あんたの判断ミスでしょうに」「煩い!ハボック。お前も私の判断を支持して面倒ごとを避けただろう!」「そうなの?少尉」貴様だけいい子になるな、とばかりに火の粉をこちらに振りかけてくるなんて!「そ、そんなはず…ないですって、中尉?!」彼女はガシャンっと重い音をたて銃を握る。


連日の作業に駆り出されたのは彼女も例外じゃなくて…寧ろ暑さによってサボり癖が増した上官のお守りと補佐の仕事。その他諸々の俺達の知らない厄介ごとが彼女の肩にのし掛かっていたのかもしれない。さすがに限界だったみたい…な?「ちょ、たんま。落ち着きましょう!?」「あら?少尉、私は冷静よ」

氷の微笑を口元に浮かべると発射された弾丸は俺の頭髪を掠めて、窓の隙間からニュルニュルと侵入しかけていた蕪に命中する。お見事!素早く二の矢を射るように、繰り出された水鉄砲の水流が当たった蕪は、みるみるどす黒く変色しだした――。うぇぇ〜ビクビクしている…「進化しだしたようね」「へ?」


「次の段階に進みだしたのよ、時間が無いわね…」唖然とする俺を尻目に、「大佐、ワイルドカブについての報告書です」「うむ…これは厄介な相手だな」「ええ、食用としては焼いて好煮て好。さらに蒸しても美味しい…といった蕪本来の良さが全くない代物です」二人はずれた視点で対策を検討している。


「とにかく、最終形態に変化する前に有効な調理方法を…」「まさか、食べる気なんですか?アレを!?」「そうよ」ぞっとする俺に向かい。恐ろしいことをピンク色の可愛らしい唇から中尉はつらつらと語りだした。「巨大化の次はね。歩きだすの、幸い専門家の話では食用になるらしいから軍部内で食べ…」

俺はそれ以上聞きたくなくて、耳を塞いで子供が嫌々をするように首を振りまくっていた。あんなへっぽこカブを喰ったら変な病気持ちになっちまう!ふと見上げた窓枠に、しがみつくようにして痙攣していた蕪が力尽きたのか。ポトリと落ちた――「キュルルゥ〜」断末魔の声までだしたこれを食べるのか?!


「…では、さっそく捕獲作戦に切り替えだな」「はい」どうやら調理法は後回しにして、第二ステージに移ったと思われる蕪を捕まえるらしい。「…あんたら、おかしいっスよ」「ハボック?」「だって、あんなの喰えるわけないでしょうが!?」おかしいなんてもんじゃない、変だよ!絶対、変だ。狂ってるよ

「ふっ一般人には今は受け入れがたいかもな。今回は我々で食することにして行く行くは、東部の名産品ワイルドカブの名を付けて司令部の資金源にしてもよかろう」涙目で訴える俺に、「口外するなよ」と箝口令を強いて(食べるって話したら減給三ヶ月に過剰勤務付きだってさ)大佐は部屋を後にした。酷い

「ごめんなさいね。ちょっとショックだったかしら?」「中尉…」「大丈夫。美味しく食べる方法を探してみせるから」「…」嬉しくない慰め方だな。天使みたいに優しく微笑んで俺の手をとった彼女は、「はい、コレを忘れずに焼却炉へ持って行ってちょうだい」まだ生温かい瀕死の蕪を…俺の手に握らせた。
 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ