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□140字 2(カブと中尉)
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カブと中尉


夏の始め、初の最高気温を叩きだした暑い日。市街地からの視察帰りに、「あら、大きなカブね!」「へぇ〜。こんな道の真ん中でコンクリの隙間から生えてるなんて、根性ありまスね」「ふむ…すずなの新種かもしれんな」中尉が発見した。人の背丈ほどの巨大な蕪を俺達三人は興味深く眺めていた。


「でも、こんな所に生えているなんて通行の邪魔だわ」「そ、そうっスか?」ど根性で必死に生えているカブに、酷いこというんだな。「可哀相だけど、仕方ないわね。ハボック少尉、引き抜くなり何なり、してちょうだい」「ちょっと、中尉!俺ひとりでこの超巨大カブを何とかしろなんて、無理ですよ…」


屈強な大人数人がかりでも、引っこ抜くのは大変そうなのにな…珍しく苛々した様子で中尉はカブを処分しろ、と言う。「そうかしら?じゃあ、燃やしてもらいましょう。ねぇ大佐」彼女は綺麗な笑みを浮かべて上官を振り返る。「残酷だね。君…」「酷すぎるっス」結局蕪を放置し後日、後悔することになる。


始まりは一株だった――それが増殖を繰り返して…いや、後は枯れるだけの蕪がこんなことになるなんて、想定外のことだった。誰が後日の厄災をあの時、事前に知ることが出来ただろうか?「もう、少尉!想定外なんて言い訳してないで早く仕事に行きなさい!」昼飯の時間は終わりだと尻を叩かれてしまう。

「はぁ…あちぃな」炎天下の市街地にて…俺達は汗水垂らして除去作業をしていた。…っていうか。『異常繁殖中のあのど根性カブを駆逐しろ』と言う命令に熱中症に殺られたらどうしてくれるんだよ、と思いつつ。蕪との格闘に明け暮れた。地獄のような七日間が過ぎようとしていた。もう蕪は見たくないぜ。

チョロチョロ…「あれ?またか…早いな」水をかける為に使用していた噴霧器の威力が落ちてきていた。「ハボック少尉、後は代わりに自分がやりますよ」「我々に任せて日陰で少し休んで下さい」「ん、皆ありがとさん」よくできた部下達の心のこもった労いの言葉が嬉しい。「残りは大通り沿いだけだな…」


僅かな土塊と雨水を元に蕪は急成長を遂げていた。俺達が見逃した蕪は(俺のせいじゃないからな)夏の暑さが引金になったのか。短時間に仲間を殖やして瞬く間にイーストシティの街を蕪畑に変えてしまったんだ。最初は珍しがっていた市民も、日常生活に支障をきたすようになって軍の力を頼ってきていた。

「困った時の軍隊なのかねぇ」除去作業は大佐が用意した特殊薬剤が効力を発揮して、効率よく且つ安全に進んでいた。この薬剤はパウダー入りの弾丸型カプセルを対象物に命中させて後液体をかけると、数秒で枯死する即効力の強い毒薬だ。一撃必殺なんて製作者の性格を端的に表しているよな。恐いこわい。

なんで移動しない植物相手に、飛び道具を使うのかは判らないけれど、『的がでかい上に数が多い蕪は射撃訓練も兼ねてるんじゃないか』ってブレダは言う。子カブは手でむしって焼却処分に回していた。「でも、気持ち悪いカブだな〜」「気持ち悪いですねぇ」「引っこ抜いたらさ。全部二股なんだよな」


「変わってますね」「やっぱり?皆そう思うよな〜特にさ…」休憩しながら蕪の卑猥な形状について話をしていた時だった。「少尉殿!」憲兵が血相を変えて走ってきた。案内された先で目にしたのは…ドクドクと呼吸をしているみたいに、脈打つ蕪だ。動物みたいになってるぞ。見なかった振りは出来ないよな

上官に報告をいれた所、ヤバイものは隠せ、という指示を受けた。「同じものを発見次第、連絡してくれ」「はっ!…あのぉこれは他国の新兵器なのでしょうか?」「…大丈夫だろ。俺にはどーみても蕪にしか見えねぇし」その後、俺はエッさホイさと力自慢の部下と共に蕪を荷台に乗せて司令部へ運びこんだ。

「また、厄介なものを…おまえは私の管轄内で見つけて」「すんません、大佐」ぶつぶつ言いながら的確な指示をすると、「しかし…利用価値はありそうだな」男はニヤリと笑みを浮かべる。何か飯の種を嗅ぎつけたみたいな…悪い事考えてる面だ。目の前で赤く色づく球体。こいつは一体なんなんだろうな…。

 
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