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ロイアイの日まで継続更新〜
ギュギュッっとまとめた短文140もどき。卵!

「本日の分は、そこまでです」午後の休憩中。三つめの玉子を食べたところで制止の声が掛かる。聞こえぬ振りを装い。構うものか、と四つめに手を伸ばせば、私のお守り役にそれはそれは冷たい眼で睨まれた。嗚呼、恐ろしい。自己管理などごみ箱行きだ。卵くらい好きに食べさせてくれないものだろうか。

「今日の玉子は美味いな」殻をぺりぺりと剥がし呟いた。言い訳めいた言葉で取り繕い、尚も手を休めずに動かして素早く、剥き身のゆで卵を口にほうばった。柔らかすぎない固さが好ましい。「なんだ、機嫌が悪いのか?」欠片を舐めとり僅かな口実にかこつけて笑みを浮かべ、話を拡げようと試みた。

空腹が満たされたので、腹ごなしに休憩中の会話を楽しめるならばどんな内容でも構いはしない。「私が軽食に買って来たものだ」「過剰摂取になります」例え喧嘩ごしでも…「ご自分の体質をお分かりですか?摂取分丸々身に付いてしまうのに…成長期でもないのに止めて下さい」いや、やはり普通がよいか。

「取り越し苦労だ。玉子の篭を置いて茶を淹れてきてくれ」と傍らに立つ副官に命令した。「お茶はお持ちしますがこの篭は下げてきます」にべなく言って踵を返すので、追いかけて押し問答の末に強引に軽食を取り上げ、彼女を部屋から追い出した。さあ、戻ってくるまでに余った分を胃袋に入れてしまおう。

次の日は朝から雨だった。気分が滅入ったので、引き出しから出したアレを付けて玉子をもそもそ食べていると「そんなものまで持参なさって!」目ざとい副官に小言をくらった。「ご使用になるならこちらをどうぞ」彼女にアレを奪われ、代わりに岩塩を押し付けられた。アレは私のマヨネーズなのに!

「これは借り物だからいいだろう」諦めきれなくてブレダから手に入れた。つぶカラシ入りマヨをたっぷりかけて軽食を食べる。「私に是非使って欲しいと奴が頼むので仕方なくな…」文句は言わせん。しかし…「癖になりますから駄目ですよ」と再び奪取されてしまう。参ったな、薬味がないと食が進まない。

「大佐!」「癖になどならない」私は片手に玉子を掲げていい募る。「例え栄養の過剰摂取になるとしてもだ。代謝がよければ問題ない。それに日々食事の度に身体が毎日必要な成分だから、と蛋白質を欲しているんだよ」私物奪還とつかの間の至福タイムをもぎ取ろうと心に固く決めて、滔々と正論を述べた。

「最後の晩餐かもしれんぞ…」「有り得ません」「問題ない。私に構うな」「…では、お好きなようになさって下さい!」攻防の末に勝ち誇った笑みを浮かべると。寂しげな横顔をして唇を噛みしめる君がいた。やり過ぎたかと後悔し、放り出した戦利品代わりにそっと抱き寄せる。「すまん、私の負けだな…」

 
 
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