FA1

□LITTLE DRAGON
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 その男が右手にした鋏が翻るたびに、細い棒の先に貼り付いた飴の塊が自由自在に形を変えてゆく――白い耳、鬣、背をはう鱗、最後に竜尾がくるりと棒に巻き付き、忽然と一匹の小竜が現れた。

 飴やの職人芸から繰り出される。まるで、魔法のような仕草を興味津々の態で、少女の鳶色の瞳が追いかける。通りすがりに見かけた飴細工から目が離せないまま、息を潜めて見守っていた時間は長いようでいて、実際には、飴が固まるまでの極僅かな時間に過ぎない。
 温めた飴を保温器から取り出して、早くも次の実演販売が始まっていた。

「欲しいのかい? リザ」
「でも、ちょっと……」

 ほう、とため息をついたリザに向かい語りかけるタイミングを逃すまい、と声をかけた。
 右後ろを振り返りながら曖昧な言葉で応えた後に、リザは財布を覗いて持ち合わせを眺め、もう一度ため息をつくと土産にだろうか。店頭にある林檎飴を一本と少し考えてから、一緒に並んでいた飴玉を一袋買いもとめて帰宅するらしい。

 尖った角に風を受け止めて膨らむ比翼が躍動感に満ちている飴細工の小竜は、後から来た親子連れの手に渡ると、パクリと子供の口の中に消えていく。

 それをじっと見ていたリザに対して荷物持ちを勝手でると、遠慮がちに林檎飴以外の飴玉とお使いの包みを渡してくれた。



 今日は師匠宅へ向かう途中に駅前の露店で、リザに偶然出会い。そのまま二人連れだってブラブラと、冷やかし半分に出店を見て回っていた。
 持ち合わせがなくて何も買ってやれなかったけれど、リザは眺めているだけで満足らしく、始めから終わりまで嬉しそうだった。

 思わぬひととの出会いに気を良くしてそっと先程のことを思い出し、ちょっとしたデートだったんじゃないか、と甘酸っぱい思いを噛みしめていた。隣を歩く年下の少女に対して抱くには似つかわしくない思いだとしてもいいじゃないか。
 余所行きのワンピースに、柔らかな金色の髪が風にそよぐのが眩しかった。

「さっきのアレいいのかい?」「大丈夫です。……それに、これじゃないと駄目なんです」

 最後に立ち寄る形になった露店にて、目的のものを購入したらしいリザに、興味を抱いたことを聞いてみた。

 彼女は何か特別な思い入れでもあるのか。そう答えた後に、右手に持つ赤い飴を見ていた。 
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