過去拍手文

□遭遇
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遭遇


その日、私は直属の上官に指示された情報を入手した後、急ぎ報告する為に軍議中の会議室前の廊下で独り、軍議が終了するのを待っていた。
と、そこにカツカツと軍靴の音を響かせ、この時期、東方司令部には居るはずのない方が現れた。

「アームストロング少将……」

私はおもいがけない方との遭遇に驚きつつも礼を損なわぬように、素早く敬礼をする。左右に控える強面の副官達を除いても女性ながら、将軍の地位を拝し北の女王と称される。アームストロング少将の存在感は、私の背筋を正すのに充分すぎるほどの威圧感を醸し出していた。

「む、確か……マスタングの部下リザ・ホークアイ中尉か」

北の演習以来だな、と少将は足を止め、気さくに話し掛けてくる。少将が私のようなものの名を覚えていることを意外に思いながら、これは最近、昇格した直属の上官が、軍内部で頭角を表して来ているゆえだろうか、と考えていた。

そんな私に対して、
「ホークアイ中尉は優秀な補佐だと耳にしていたからな。しかし、仕えるのがまだ年若い青二才では苦労するだろう。また、学べることも少なかろう」

「それなりに充実した日々を送っております」

「ふむ……充実とな」
「はい」

そう私自身で選んだ道なのだから、苦労することも有りはしたがそれは、許容範囲内のこと。どんな困難も重荷に思ったことはない。

「ひとつ、ホークアイ中尉に聞きたいことがある。答えてくれるか?」
「はい」

どうやら少将は私に対して最初から何か質問があったようだ。女王様からの問い掛けとはどんな質問だろう? 私は返答次第では、首をはねられそうなくらいの威圧感を感じていた。

「もし……戦場で生き延びる可能性が皆無となった上官の生命か任務遂行か、二つに一つの選択を強いられた場合、どちらをとるか?」

「上官を守り、任務をこなします」

私の二兎を得るような発言に対して少将は片眉を跳ね上げ、
「選べるのはどちらか一方のみだ」

もう一度念を入れるように問いを繰り返した。

「私が盾になりその後、上官が任務をこなせば、必然的に任務も遂行できます」

「詭弁だな。救った所で残り僅かな命だとしてもか?」

「はい。何よりも指揮官の生命を優先します。駒のすげ替えは可能ですが、将の代わりを務める者はおりません」

「ほう、たいしたものだな。自分の命など惜しくないと言うのか。しかしそう上手くはいくまい。結果、主従共に倒れてもよいのか?」

「盾となれるのならば、本望です。それに目的達成前に倒れることは無いと、信じています」「……そうか」

私の伴で押したような答えを聞いて、アームストロング少将はすと眼を細めた。

そうね。生き残る可能性が高い方が、任務を遂行する為に生き延びるべきかもしれない。それでも私はあのひとを守りたいのだ。

私は話しに出ていた上官のことを考える。
あの年齢にしては、早過ぎる昇進で手に入れた国軍大佐の地位を持つ。しかし、それすらもあのひとにはまだ足りない、さらに上に登り詰めたいのだろう。出来るだけ早くに目的を達する為、まるで何者かに追われるように日々、生き急いでいるようだ。

私がそのことを尋ねると、
『中尉。目的達成は、早ければはやい程に良いからな』

と、あの人は笑いながらに当たり前のように言うけれど、それはいくら時が経とうと忘れ去ることは出来ないあの地で、背負うことになった内なる怒号がいつまでも……あの人の心の中に渦巻いているからだろうか。


私が一瞬の黙想に浸る間に、どうやら会議が終了したようで扉が開き、他の左官と共にその上官が部屋から出てきた。

私を含めて、金色の髪を持つ者が多いアメストリス人の中にいて、目を引く黒髪に切れ長の黒い眼、顔だちは実年齢より年若い印象を受ける童顔だがどちらかと言えば、女性受けする日頃の行動をかんがみると、秀麗な部類にはいるだろう。

常に国軍に属す軍人が着る青軍服を纏い、一握りの人が手にする国家錬金術師の二つ名も拝する私が仕える男。

「待たせたな中尉。情報は入手出来たか?」

と、言いかけた彼は私の横に立つ人物に気づいたようで、ぴたりと足を止めると、
「や、これはアームストロング少将」

珍しい方がいるものだと目を軽く見開いて、驚きを表す。
 
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