FA

□140字 10赤鼻の彼
3ページ/5ページ


…………………………

いきなりピンチだ!新型マシンの飛行中、エネルギー切れで雪山に落っこちた。二人乗りにしては馬力不足だったのかな?「いきなり高速ワープを連続でやるバカがいるか!」「サーセン…」なんせ開発担当のフュリー(トナカイはメカニックでもある)が自信作だって言って、ボタンもいっぱい付いてたのに!

幸い俺達は普通の人間より丈夫だから、たん瘤が出来ただけですんだ(マシンはオシャカだけどな)「ホークアイ大丈夫か?」「…はい」二人が本部に連絡を入れている間に俺は飯の支度をしよう。トナカイのポケットから絨毯にサンドイッチ、干し葡萄のケーキをだした。雪山は冷えるな〜鼻が赤くなりそう。

「迎えが来るまで待機だな」ケーキを食べながらマスタングサンタは唸る。「雨が降らないといいんですけど」チキンサンドを小さな口に運び彼女は呟く。雨か…相合い傘もいいな。水溜まりに映る金髪が揺れて笑顔の彼女に、やっぱりトナカイは頼りになるわなんて…へへへ//「妄想も大概にしろよ」へっ?

ギラギラとした視線で睨まれて脅される。「…」怖い怖いサンタの千里眼は半端ないから。「ちょっくら散歩に行ってきます!」傘を取り出して彼女に渡すと、俺はあたふたと空に向かって逃げ出した。「二人っきりは危なかったかな〜」風と戯れた後、雲の切れ間から日向ぼっこをしてるサンタ二人を見守る。

サンタに休日はあって無いみたいなもんで、休める時に休むものらしい。腕枕で眠ってる彼女を見てお疲れなんだな〜と、んで。男の方はグースカ寝息を立ててるけど、起きたら腕が痺れた!と騒ぐんだよ。きっと、ポケットに入れてある湿布薬を確認しておかないと。日射しが温い今日は雨は降らないらしい。

「んあっ」地上に戻った俺が余っていたケーキをもそもそ食ってると、マスタングサンタが目を覚ました。この人寝起きが最悪だから嫌な予感がするな〜半眼で睨まれ「…水を」飲みかけの天然水(雪を溶かしたやつ)を渡すと一口飲んで後はうがいをしやがった。でもそれ以上の実害はなかったからホッとする

その後、ポケットの掃除をしていた俺の目を盗んで彼女に屈み込んでいたからチューでもしてるのかと思ったら、虫がいたんだという。「ああ、真っ黒くてロリコンなやつですね…あーーっすんません!」ヤベェ、バチンと火の玉が点って俺のケツに火がつく五秒前だった!大声出したせいで彼女が目を覚ます。

「ん…」ちょっとセクシーな声が聞こえたけど、真っ黒い虫がいるから近づけない。「んー、お早うございます…あっ」枕代わりにしていた腕に気がついて乙女チックな反応を見せている彼女、吊られてもたつく男の姿二人だけの世界がキラキラしていて…俺はまた、空気読んでお空に昇る羽目になりそうだった

「アタタタタ…」ちょうど時間差で男の腕が痺れ始めて、砂糖菓子みたいな空気は消滅する。「はいはい、お取り込み中に失礼しますよ」お邪魔虫のトナカイさんが通りま〜す。湿布をバチンと貼るときゅうっと男が唸る。「我慢して下さい」彼女に介抱を頼んで絨毯を畳みながら帰ったら始末書もんだなと呟く

「大丈夫ですか?」「ん…」胡座をかいて前屈みになった男を心配そうに見守る彼女。誰かが側にいるだけで安心するのだろう。悪くないって顔をしていると思う。仕事は出来るけれど、考えてみればこの人はいつも独りだった。出世の為になりふり構わないやり方をする黒い噂。真偽はわからない、だけど――

「君こそ睡眠時間はきちんと確保出来ているのか?」「鍛えているので、仕事に支障はありません」「有給休暇制度が来週から使えるから申請するといい」「いえ、大丈夫です」「サンタが使わないと下につくトナカイも休めないだろう?」「あっ…そうですね」俺の知ってる男は仲間やトナカイにも優しい。


湿気た煙草に火をつけて万年雪をぼんやり眺めて―「…ハボック!」「はい!」咥えていた煙草は灰になりハラリと落ちた。「迎えが来たからと何度も呼んだのに…どうした?」「すんません」いっけねー無視してたみたいだ。サンタの片目がすっと細くなる「お前も有給、申請しておけ」はい、骨休めシマス… 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ