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□この不本意な連鎖を断ち切って
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どうして私はこんなところにいるんだろう。自分の意志でここに来た訳ではないから、物凄く違和感を感じた。それと罪悪感。
ここは藤真の部屋。見慣れた家具類が私を迎えてくれていたけれど、私は居心地が悪くて悪くて居ても立ってもいられなかった。
友人とかそう言う意味で藤真は私に心を許してくれているけど、私はもうそういう意味で藤真を見ていられないからだろうか。変わってしまった気持ちを戻すことなんて出来ない。
不器用な私には、その恋情をひた隠しにするので精一杯で。ぎりぎりと人差し指の爪を親指の爪にくいこませた。藤真の瞳には、私は映っていない。




「どうして呼んだの」
「……わかってるだろ」
「別れるの?あの子と」
「……別れたいとは思ってる。ずっと前から」
「ならそうしちゃえばいいのに」
「でも、あいつに泣かれると困る」




ぼそり。藤真はそれだけ言うと後は何も聞くなとでも言うかのように不機嫌そうな表情をしてそのまま何も言わなくなってしまった。自分から呼んでおいて、都合のいい人だ。
流れで付き合っておいて飽きたら別れたい、なんてとんだ身勝手だと思う。そして泣かれると困るだなんて益々おかしい理論だ。きっぱりそう言ってやりたい。
けれど、私は藤真には甘くできているからそんなこと言えなくて。苦しさと切なさとでいっぱいになった私に、藤真は気づかない。見てすらいない。




「……泣かれると困るのは、すきだからじゃないの」
「わからないんだ。俺にも」
「なら私にはもっと理解できないよ」




これが私にできるささやかな反抗だった。それすらも藤真は無視して、「それもそうだな」なんて適当な相槌を打って。私をどれだけ惨めな思いにさせれば気が済むのだろう。
今まで何回「別れたい」と藤真の口から聞いたことだろう。藤真が辛そうにしているのは私も辛い。
何よりも、好きだから付き合ってるはずなのに苦しそうにしているのが部外者の私からすれば何だかとっても滑稽に見えて仕方なかった。




(でも)




それでも本当は何処かで藤真とあの人が別れちゃえばいいって思ってる。偽善者ぶってれば藤真は私を頼ってくれる。私は必要とされているということを実感し、喜ぶのだ。
私はきっと藤真より何倍も汚い人間だ。いや、もしかしたら藤真が純粋すぎるのかもしれない。破られることのない静謐の中で、私の心臓は声を殺して切々と泣き叫んでいた。







この不本意な連鎖を断ち切って

(これ以上私を苦しめないで)

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