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□独占欲とそのプライド
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聞きたくない。そもそもどうしていつ人が来るかわからないような教室で大事な告白なんてするのか。私には理解できなかった。
入ろうにも入れないし、一回別の所で時間でも潰してようかなとも思ったがそこまでかかりそうでもなかったので聞こえるか聞こえないかの所で待つことにした。
教室から微かに聞こえてくる話し声が止んだと思ったら、すぐにそこから逃げるようにして早足で出てきたのは女の子の方だった。半分泣いているようにも見えた。ここまで客観的に見れるのは、他人事だから。
もう入っていいかな、と思って中を覗くと予想通り藤真が居た。まるで何事もなかったかのようにロッカーから教科書類を取り出している。そんな藤真が酷く薄情な人間に見えた。



「お前、聞いてたのか?」
「何言ってるかまではわかんなかったから。でも、何されてたのかは大体想像ついてた」
「あっそ」



がちゃがちゃとお世辞にも綺麗とはいえないロッカーを漁る藤真。私は私で自分の机から目当ての単語帳を取り出して、乱雑なカバンの中にそれを放り込んだ。
この間約一分。お互い何を話すでもなく各々の帰り支度を整える。藤真は今何を考えているんだろうか。さっきの女の子のことでも気にしているのだろうか。
多少の好奇心がわいたけどそんな軽い気持ちで聞いていいものでもないような気がした。でもやっぱり知りたい。



「…断ったんでしょ」
「あいつの顔見たんならわかるだろ」
「泣いてたね」



ほんとうに、悲しそうな顔をしてた。藤真のことがずっと好きだったんだろうか。
藤真が異性からとても人気があることは周知の事実だったし、私だってその内の一人なわけだし、彼女の気持は痛いほどわかった。けど、私にとってはただの邪魔者でしかない。
藤真を好きで居るということは、少なからず誰かの感情を害することになってしまう。そんなことは知っていた。慣れていた。
色素の薄めなその瞳もその綺麗な睫毛もまっすぐとしていて決して揺れることはなく、淡々と瞬きを繰り返すだけで。私が馬鹿みたいに思えてきた。



「もう少し優しくしてあげたら」
「なまえはそれでいいのか?」
「…どちらかと言えば嫌かも」
「なら、無理」



きっぱりとしたその返答に少しだけ彼女がかわいそうになると同時に、優越感を感じる私が居た。この瞬間が私はたまらなく嫌いだった。
私は屑だ。もやもやしたこの感覚と藤真をすきだという感情のふたつが交じり合う。そんな気分を紛らすかのように、鞄のファスナーをぐっと引っ張ってしめた。藤真はどうでも良さげにバッグを肩にかける。
これは喜んでいいことなんだろうか。付き合い始めてから私達にはそれぞれになにか人として大事なものがどんどん欠落していくように思えた。



「帰るぞ」



音を立てて扉を閉めると、さっきまでの重苦しい雰囲気が一気に消えていくようで少し楽になる。けれど私の顔は曇ったままだろう。
こんな気持を抱いてまで藤真といっしょにいたいと思うのは。やはり藤真がすきだからなのだろう。それ故に誰にも渡したくないという欲が生まれるのだ。
この感情はきっと私だけのものじゃない、人間が誰でも抱くものなんだと信じていたかった。そして私の中のどこかでまた一つ、感情が消えていくのを感じた。







独占欲とそのプライド

(綺麗なままで好きで居るのは難しい)

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