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□危うく恋するところでした
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蝉の鳴き声が遠くから微かに聞こえる。しかし、「もう夏だなぁ」なんて悠長に思っている余裕はない。
今日は男女合同で外で来るべき体育祭に向けての練習の日。
超がつく程の運動嫌いの私は軽いランニングを終えてすぐにサボりに走ろうとしていた。

どうせ私が出たって、チームの迷惑になるだけだ。私の出場する中距離リレーは、クラスの半分が参加する競技で結構な目玉競技の一つ。
一人一競技に出ること、なんて面倒なルールのせいで半ば強制的に出場することを決められてしまった。



「ふぅ…」



体育館裏の木陰に隠れるようにして座る。この辺りは先生の目も届かないし、外での授業をサボるには絶好の場所だ。
実際、他の人がサボっているのだって男回か見たことあるし。別に私一人居なくなったって誰も気が付かないだろう。

そんな風に思っていたのも束の間のことで。



「…みょうじ?」
「!」



声の方を向くと、そこには同じクラスの花形君が居た。両手には陸上の用具を抱えている。
きっと係の手伝いか何かだろう、真面目な彼らしい。



「練習、行かなくていいのか?」
「…今日はここで休む予定」



我ながらなんて無愛想な返事なんだろうと思う。花形君は当然のことを言っているだけなのに。
けれど、花形君はそんな私に対して咎める素振りすら見せない。

遠くからは、皆の騒ぎ声が聞こえる。本来ならば私もある中にいるべきだったのだろう。



「気分でも悪いのか?」
「別にそう言うんじゃないから。気にしないで」
「そうか…」
「別に私がいなくても、普通に練習できるだろうし」



この様子だと本気で心配してくれているようで、何だか罪悪感を感じてしまう。
そりゃ勿論、サボっているのだから申し訳なさを感じて当然なんだろうけれど。

だから、もう戻った方がいいよ。用具持ってく途中なんでしょ?そう口を開こうとした時。



「みょうじが居た方がいいと思うけどな」
「…でも、私運動苦手だし。プレッシャーに弱いし。きっと足引っ張っちゃうだろうから」
「そこまで気負う必要はないだろ。何より、俺もリレー選手だしな。みょうじの分はフォローする」



いきなりなんてことを言ってるんだ花形君は。
普段そこまで関わりのない人間にそんなことを言われて平然としていられるだろうか。
私とは、否、常人とは少し感性の違う人なんだろうか。たくさんの疑問が浮かんでは消えていく。



「何より、その方が俺としても嬉しい」



それだけ言うと、花形君は用具を持ってグラウンドの方角へ行ってしまった。
今のは一体どういう意味で取ればいいんだろう。って言うか、まず練習どうしよう。





危うく恋するところでした

(…とりあえず、行ってみようかな)

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