青春デ日常!
□騒がしい2人組
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騒がしい2人組
入学式から5日。
少しだけ新しい生活に慣れ始める頃。
涼子「おはよっ!しーちゃん、いーちゃん^^」
静花「おはよう、涼子」
侑「おはよー」
クラスでは全体的に明るく、協調性が高い人が多くいたせいか、簡単に馴染めた。
というか、1日目に皆で仲良くなった。
それも色々な意味で凄いと思うのだが、この際、気にせずに楽しんだ方が得だと思って生活する人の方が多かった。
涼子「そういえば、身体検査とかで忘れてたけど2人は部活はどうするの?」
侑「ボクは今のところは入る予定は無いけど…」
涼子「そっか、しーちゃんは?」
静花「アタシも、かなぁ…。
特に入りたい部活も無いしねぇ…。
涼子は何かしたい事でもあるの?」
涼子「いや、私も特には…」
談笑を続けながらも、手元を見ながら今日の授業の用意を進めていく3人。
平和な朝の風景が崩されたのは、その時だった。
「すいません、そこのお嬢さん方!」
涼子「へ?」
突然、だった。
廊下側の窓の外から声をかけてきた男子生徒は、高校1年という年では話す機会も滅多にないであろう丁寧な喋り方だ。
動かしていた手を休め、静花が問い返す。
静花「何か用?
というか、アンタの名前は?」
啓之「これは失礼しました。
俺の名前は許山啓之。
どうぞ、よろしく」
涼子「許山…って言うの?
で、用事って??」
啓之「あの窓際の席で寝ている鷹島奈月クンを起こしてほしいんですよ。」
侑「どうして?」
啓之「いやぁ、彼とは友達で、やっと授業が落ち着いてきたから、そろそろ会いに行こうと思って来たんですよ」
涼子「1人で?」
啓之「いいえ、後からもう1人来ます」
静花「別にいいけれど、彼って起きるの?」
啓之「起きますとも;
というか、起きなかったら危ないでしょう!?」
静花「起きてる所を見た事が無いんだもの」
涼子「あ、私、1回だけならあるよ!
えぇーっと、入学式の時!」
侑「いや、それは普通でしょ…;」
啓之「あー…いや、アイツと関わらなかったら、それが普通なんですよ^^;
行事以外で動いているアイツを見た事ないって奴等が多数でしたから」
涼子「でした=c?」
啓之「あぁ、アイツ…鷹島奈月とは中学からの付き合いなんですよ。俺達はね」
静花「俺達≠チて、1人はさっき言ってた後から来る1人よね。他にもいるの?」
啓之「今日は来ませんが、あと2人いますよ。
特別、親しかったのはね」
4人でそこまで話し終えると、廊下を全力疾走する足音が聞こえた。
涼子達が驚いて、目の前の窓から身を乗り出すと、周りの生徒の中心を駆け抜けてくる1人の金髪頭が目に入った。
その光景を見ていたら、啓介から大きな溜息が聞こえてきたので、残りのあと1人は彼でほぼ決まりだろう。
それにしても先程までの爽やかな雰囲気と表情をしていた啓介と、今の啓介の表情は比べるまでも無かった。
最早、全身から呆れと嫌悪の感情が滲み出している程だ。
「けーたろー!奈月様、起きたー?!」
啓之「黙れ、阿呆!
廊下は走るなって何回言わせる気だよ!
…今、彼女達に起こしてほしいって事を伝えてたんだよ」
「マジかっ!」
再び、溜息を吐きながら、啓介が金髪頭の青年にそう告げた。
青年が叫んで少し間が空いた後に、涼子達の方を向いた。
静花「…あんまり名前を聞きたくないわね」
涼子「うぅん…」
侑「……あの、君、名前は…?」
「ん?けーたろう、名前を聞かれてるぞー!」
啓之「お前のだよ、馬鹿!」
澪「馬鹿じゃねーし!
…って、オレは野谷澪だ」
侑「ふぅん……」
静花「それで、鷹島君を起こせばいいのよね?」
涼子「あぁー…そういえば……」
啓之「忘れないで下さいな!」
涼子「ちょっと待っててね」
そう言ってパタパタと席で寝ている奈月の元へ駆け寄る3人を見ながら、啓介は
「へぇ……!」
と誰にも聞こえないくらいの声で一言、呟いた。
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涼子「おーい、すいませーん!起きてー!おーい!おいおーい?」
奈月「ん……?」
静花「起きた?
アンタの友達って人達が呼んでるわよ。
行った方が良いと思うけど?」
奈月「………というか、まず寝てないけど…」
侑「え。寝てなかったの?」
奈月「突っ伏してただけだ…。
……というか、あいつ等、来たのかよ……!」
涼子「あ、じゃぁね。
それだけだから」
奈月「ん?あぁ、ありがとう」
そう言うと、奈月は席を立って2人が待っている廊下を目指して、行ってしまった。
3人は、初めて声を聞いた驚きとそっけない態度に対しての呆れを含んだ感情を、微妙な表情で表していた。
中でも涼子は、
涼子(おぉー…かっこいい声だった!
…けど、思った以上に反応が無かったなぁ……)
と驚きを隠せなかった。
涼子がそう感じるのも当然の事で、余りにも反応が薄かったのだ。
いくら口を利いた事が無いクラスメイトだからと言っても少し位は愛想を良くしても良い筈だ。
だが、奈月からはそんな思いが微塵も感じられないのだ。
誰だって困惑したり、涼子のように驚くだろうし、人によっては苛立ちを感じる可能性もあるだろう。
が、奈月にはそんな事は関係ない。
本人は分かっているが直そうとは思っていない。
しかし、出会ってばかりの涼子達がそんな事を知っている筈も無く、案の定、苛立ちを感じた人物が、ここにも1人いた。
静花「何あれ…。せっかく伝えてあげたのに…。
さっきの2人より酷いじゃんか…!」
涼子「え、でもさ、しーちゃん、初めて話したんだしさ!
緊張…とか、してたのかも!」
静花「絶対そんな事無い」
侑「まぁまぁ、そう言わずにさ!
どうせ、もう話す事も殆ど無いだろうしさ」
静花「でも、クラスは1年、変わらないじゃない。
それに思い出したけど、アイツ、確か誰ともメルアド交換してないよ。
ろくな性格じゃないと思う」
涼子「そうは言っても…人それぞれだし……」
静花「そうだけどさ」
初めて、だった。
3人が出会って、初めて下手に触ったら破裂しそうな空気になった。
それとなく声が出せなくて、話してしまったら空気が一気に悪くなるような気がして、誰も動けなかった。
長い時間が経ったような気がした。
結局、3人が動いたのは予鈴が鳴った後だった。