長編小説

□鎮魂歌(仮)
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〜第二章〜

それから俺は、戦に行く度に鎮魂歌を弾いた。誰の為に、という訳ではない。
只、この戦に貢献して散っていった奴らの、安らかな眠りを願いながら。
鎮魂歌は、吹く度吹く度違う曲に聞こえた。自分では目立った変え方はしていないつもりなのに、日にちを置くと違う曲に聞こえるのだ。
「これじゃあ自分で調節も何もないな…」
そう思っていた矢先。ある戦後にいつものように笛を吹こうとしていた時の事。前方に何やら黒い塊が見えた。

―死神か!?

俺は笛を隠し、隠れて様子を見た。

―しかし、何やら様子がおかしい。

死神だと思われる陰はある。だがもう一つ、不可解な陰が死神と小競り合いをしているように見える。
あれは…一体…?

「悪魔、ですよ。」
いきなり如月が後ろに現れて言った。
「あくま?」
何だそれ。聞いたこともない名前だ。
「悪魔は、魂を喰らう生き物です。だから私達は、悪魔に喰われる前に鎮魂歌で魂を浄化させるのですよ。」
「じ、じゃあ喰われた魂はどうなるんだよ?」
「…悪魔の体内に留まり、悪魔の力となります。悪魔は喰らった魂が持っていた力を発揮できるようになり、そうして力を付けた悪魔はより強い魂を求め、やがては生きている人間を喰らうようになります。」
「生きている人間?!」
「大丈夫。その前に悪魔を排除するのも私達の仕事ですから。」
そう死神は言ったが、何故か安心出来なかった。
「…人間の秩序を守るのが、私達死神のつとめですよ。」
そう言い、如月が俺に笑いかけたその時。
「ぎゃあああああ!!!!」叫び声が俺たちの声を裂いた。
「!?」
振り返ると、さっきの黒い塊が死神を喰らっている。
「!いけない…貴方は自分の陣にお戻りなさい今すぐに!」
何か言葉を返そうとした途端、さっきまで遠くにいた黒い塊がいつの間にか背後に来ていた。
「如月!!後ろ!」
やっとそう叫んだその瞬間。ふわっと体が浮いたと思ったらいつの間にか周りの景色が変わっていた。
「…ここは私が請け負います。普段はあまり強くなくとも死神を喰らった、となると厄介ですからね。」
「…お前等みたいな能力が身につく、という事か?」
「そうですね。簡単に言えばそうなります。あの死神が上級でなければよいのですが…」
どうやら死神にも強い奴、弱い奴の区別はあるらしい。だが、だとしたらコイツ(如月)はどうなんだ?

―否、しかし俺にはまた別の考えで頭が一杯だった。
「…なぁ。悪魔って人間でも倒せるのか…?」
「…は?」
気の抜けた如月の声が聞こえた。

―刀が震えているのが分かる。腕が疼いているのが分かる。
欲している。この刀が、この腕が、この体が。戦いというものを欲して疼いている。
「だ、だだ駄目ですよ!高宮さんは戻って下さい!!」
必死で止める如月。だが俺は全く聞こえていなかった。只、悪魔を殺る。殺りたい。そんな事しか考えられない。
「高宮さん!」
如月が叫んだ頃には俺はもう走り出していた。
いつもの戦のように、自我を忘れて。

気が付けば俺は、悪魔の前に来ていた。先刻まで黒い塊のような姿が、人の形に変わっていた。
「…人…間…」
言葉まで喋った。死神を喰らう事で、ここまで成長するものなのか。

―ゾクッ

体が震える。怖いわけではない。俺の中の気持ちが、歓喜をあげているのだ。
これは、戦の前に訪れる感覚に似ている。体が震えるような、あの感覚、興奮。俺はスラリと刀を抜いた。

「人間…魂…寄越せ…寄越せぇええ!」
もの凄い勢いで襲いかかってくる悪魔。
と、その時。シュッ、と言った音が聞こえたかと思うと、今まさに俺を掴もうとしていた悪魔の腕が落ちた。
「ぅ…ぎゃあああああ!!」
その場に倒れ、悶える悪魔。
「高宮さん。無事ですか?」
如月が駆け寄ってきた。
「これで少しは時間が稼げます。今のうちにお逃げ下さい。」
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