短編小説

□オモテ、ウラ
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静かな部屋の中。

乱雑に脱ぎ捨てられた軍服が入り口からちらばっている。
そんな部屋の奥で、アメリカはソファーに横になりクッションに顔を埋めていた。
トニーが顔を覗きに来ても動こうとはせず、ただ頭を撫でてやるだけ。トニーはしょんぼりして部屋を出ていく。


アメリカは機嫌が悪いのだ。こうなってしまっては暫くこのままだとアメリカの家に住んでいる生き物たちは分かっている。
だからいつもは賑やかなアメリカの家は今、あり得ないほど静まりかえっているのだ。


数分経って、アメリカはむくっと起き上がり「お腹空いた。」とキッチンに向かった。
適当に色々作っていると、トニーがカチャカチャとケータイをいじっているのが見える。
「あ、こら!それはいじっちゃだめなんだぞ!トニー!」
追いかけてパッと取り返すと、画面にはアドレス帳が映し出されていた。
「…。」
そのままカチカチと何気なくボタンを押していると、カナダの名前が出てきたところで指が止まる。
「…気分転換に、カナダと遊びに行こうかな。どうだい、トニー?」
頬を緩めてトニーを見ると、トニーはうんうんと何回も首を縦に振っていた。




「いぃやっほーぅ!やっぱり遊園地は楽しいんだぞ!な、カナダ!」
「うん…そうだねアメリ…」
「あ、次アレ乗りたいんだぞー!」
日曜日。アメリカとカナダは遊園地に来ていた。
あの日とは打って変わって、アメリカはカナダを引っ張りながら遊園地を楽しんでいた。
しかし、カナダは引っ張られつつアメリカをまじまじと見つめている。
「…?カナダ大丈夫?少しベンチで休憩しようか。」
「え?あ、うん、そうだね。」

すとん、とベンチに腰を下ろし、2人は買ってきた缶ジュースを開けた。
「…ねぇ、アメリカ?」
「うん?」
突然呼ばれ、アメリカはジュースから口を離してカナダを見る。
「…まだ、イギリスさんとかと喧嘩したこと、根に持ってるの?」
アメリカがびっくりして目を見開いていると、カナダは心配そうな目を向けてきた。
「参ったなぁ…いつからバレてたんだい?」
「最初からだよ…!君ってば態度が出やすいんだから。」
「でも前はイギリスとかにバレなかったぞ?」
この言葉を聞いてカナダはふぅ、とため息をついた。
「あのね、僕はいつから君を知ってると思う?君と同じくらいの歳からずーっと知ってるんだよ。君の思ってる事なんて、微妙な態度の違いとかでちゃんと分かるんだからね。」
この言葉にアメリカはさらに目を開き、「Oh…」と言う言葉しか出てこない。
「…ね、ちゃんと謝って仲直りした方がいいよ。」
アメリカはハッと正気に戻り、
「何で俺が謝らなくちゃならないんだい?」
「意固地になったら、一生仲直り出来ないよ。」
「それでもいい。」
「本当はそう思ってないんだろう?」
「!」
「だって君…寂しそうだよ。」





――――寂しい。言われてみたらそうだ。

あの日。皆と喧嘩したあの日から、『この気持ち』は心の中に住み着いてた。

どこに言っても、どんなに楽しいことをしても。

どこか寒く、寂しい。

今だってそうだ。

カナダといて本当に楽しいはずなのに、家に帰れば孤独感が心を渦巻く。

心にもないことを言って。

傷ついているのは自分だとわかりながらも。

性格的に言い出したら止まらない。

そんな自分を、何度恨んだことか。

そして亀裂が出来ても、

罪悪感以上の自分のプライドが行く手を阻む。

その上、皆の言葉が耳に入らない。

疑ってしまう。疑問に思ってしまう。

もう、もう裏切られるのはいやだという防衛本能が無意識に働く。

寂しい。苦しい。悲しい。痛い。

誰にもいえない、誰にも―――――



「大丈夫だよ。」
カナダはアメリカの肩をぽん、と叩く。
「君の性格は皆分かってる。もちろん僕も。謝るのは誰だって苦手だよ。非を認めたくないのも分かる。だけどね、動かなくちゃ。大丈夫、君なら出来るよ。いつも言ってるだろう?YES WE CANって。」
「…今すぐには、無理だよ…」
「うん。すぐになんて言わないよ。ゆっくりやればいいのさ。その分君は辛いだろうけど、それは君の選んだ道なんだから耐えていかなきゃ、ね?」
「…うん、そうだね。ありがとうカナダ。」
その言葉にカナダはニコッと笑った。
「ううん。…さ、休憩はもう終わりにして遊びに行こう?辛い道を乗り越えるために楽しみは大切だよ。」
立ち上がり、手を差し伸べるカナダを見てアメリカもニカッと笑った。

「そうだね!行こう、カナダ!」
そう言うとアメリカはカナダの手を握り、アトラクションへ走る。
そんなアメリカの顔は、遊園地に来たときの顔とは少し変わっていた。

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