短編小説

□君のオアシス
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「…う゛ぅ゛ー…」

部屋の中にうなり声が響く。
声の正体はケータイを睨みつけているアメリカだった。

「…う゛ー…」
「なに唸ってんのさ。ケータイとにらめっこしちゃって。」
ふわりと香るコーヒーの匂いと共にフランスがキッチンから出てきた。マグカップを二つ持っている。

「…はぁ!もう止めた!こんなの俺らしくないぞ!」

ポィッとケータイを投げ捨てると、カランカランと回転しながらケータイは廊下を滑っていく。
「こら、廊下が傷つくだろ」
「あ、コーヒー入れてくれたのかい?俺ミルクと砂糖たっぷり入れてほしいんだぞ!」
「はいはい。」

フランスはアメリカのマグにスティックシュガー2本にミルクをたっぷり入れた。
これがアメリカお決まりのコーヒーだというのは分かっている。

「フランスはなにも言わないんだね。」
「何が。」

新聞を読みつつ、コーヒーをふぅふぅとさましながら飲んでいたフランスは顔を上げた。

「だってイギリスは砂糖入れすぎだーとか、ストレートやブラックで飲むのが当たり前とか言うんだぞ。」
「そりゃあお前が紳士だからだろっつっとけ。」

くぃっとカップを軽く上げてフランスは続ける。

「性格と同じでコーヒーや紅茶の飲み方は人それぞれなんだから、無理に共有する必要はないさ。お前、得意だろ?freedam。」

その言葉にアメリカはニコッとして「そうだよね。やっぱり。」と言った。
「そして、気持ちを伝える方法も一緒。」
コトン、とマグを置きフランスはケータイを指さした。
「無理に相手にあわせなくていい。自分なりに伝えるのが一番なんじゃない?」
「…分かってるんだけどね。」
へへっと苦笑いをしながらアメリカはコーヒーを啜った。
「…やっぱりフランスんちは居心地がいいや。あったかいし、フランスがいるし。」
「そりゃどうも。」
フランスは空になったマグを持ってキッチンへ行く。おかわりを持ってきた頃にはアメリカはソファーで寝ていた。
「…疲れてるんだなぁ。」
フランスはパサッと近くにあったブランケットをかけてやる。

『居心地がいいや』
「…本当に。少しでもここがお前の憩いの場になってれば、いいんだけどな。」

そう言い、短いブロンドの髪を撫でた。

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