短編小説

□アクム。
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夢を、みた。


その夢は、とてつもなく恐ろしくて、悲しい夢だった。


俺は起きた瞬間、すかさずある所へ電話した。


プルル、プルル…


このまま電話に出なかったらどうしよう。電話が切れてしまったら…
ぐるぐるとイヤな事が頭を巡る。


ガチャ。


「…おぃ、何だよこんな朝っぱらから。」
「イギリス!」


思わず声を大きくしてしまった。相手は驚いた声を出す。
「な、なんだよ。どうした?なんかあったか?」
「イギリス…」


…よかった。


この恐怖は夢だなんて、そんなことは分かってる。
だけど、今日の夢はただ恐怖というだけでは片づけられないものだった。

「…怖い夢でもみたのか?そっち、行った方がいいかよ?」
「ううん、大丈夫。ただ、もう少し声聞かせて。」
「あぁ。」

最初とはうってかわって優しい声をかけてくれる。その優しさが、安心と同時に不安もあおった。

「…あのね。」
「うん?」
「君が、死ぬ夢をみたんだぞ。」
「俺が。」
「うん。でね、それがすごくリアルだったんだ。ニュースとかにもなってて、俺はテレビの前に立ち尽くしてた。」


そう。夢の中で俺はイギリスの死をテレビで知った。
何故、自分はイギリスの近くにいないのか。何故、テレビで知らなきゃならなかったのか。
テレビは淡々とそのニュースを報告している。
テレビの前から逃げたくて、でも夢の中の自分は動けなかった。


「ばーか」
イギリスの声ではっと気がつく。
「お前みたいな奴をおいて死ぬ訳ないだろう、この俺が。」
「…ウン。」
「大丈夫だよ。俺はそう簡単にくたばったりしねぇから。」
「…そうだよね、ごめん。」
「別にいいよ。」

こんなバカバカしいこと…とイギリスは思うかもしれない。自分でもそう思うくらいだから。
でも、言わなきゃたまらなかった。彼が、「いる」ということを確認せずにはいられなかった。


「…でもな、安心したよ。」
「…え?」
「俺にも、俺の死を泣いて悲しんでくれる人がいるんだなって。」
「…そんなの、当たり前じゃないか。」
「ん、そうか?」
「そうだよ。」
「そうか。…で、落ち着いたか?」
「うん、だいぶ。」
「もう怖くない?」
「大丈夫、ありがと。」
「あぁ。じゃあな。」
「うん、ばいばい。」


―ピッ


パタン、とケータイを閉じる。鼓動はだいぶ収まっていた。



『…俺にも、俺の死を泣いて悲しんでくれる人がいるんだなって…』



「…当たり前だろ、ばかいぎりす。」
ケータイを抱きしめ、顔を体育座りした膝の間に埋めた。
「…聞けば、良かったな…」
そう言い、ため息をつく。しかしもぅ一度電話をして聞いてみる勇気はなかった。











――ねぇ、じゃあ君は、俺がもし死んだとしたら…?――

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