長編小説

□画竜点睛
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昔話
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―昔々のお話。

ある村に、有名な絵描きがやって参りました。絵描きは、一晩の宿のお礼にと村人の家の壁に守り神として龍を描きました。しかし、その目には何故か右目に瞳が描かれていません。村人は訪ねました。
「何故貴方の描く龍には、右目に瞳が描いていないのです?」
絵描きは答えました。
「瞳を描くと命が宿ってしまい、飛んでいってしまうから。」
此を聞いて、村人達は皆絵描きを笑いました。
「絵の龍なぞ、飛んでいく訳ないだろう。」


その晩、絵描きの言葉が気になった村人の一人が絵を見に行きました。龍の絵にはやはり右目に瞳は描かれていません。
村人はふと、絵描きの言っていた事が本当なのか、試してみたくなりました。村人は辺りに落ちていた炭を拾い、両目に瞳を描きました。すると…


いきなり空に雲が立ちこめ、雷が鳴り響き、村の近くの海の波が高くなったかと思うと、壁を突き破り、瞳を入れられた龍が空高く舞い上がったかと思うと、見る見る内に雲の中に吸い込まれていきました。村人は驚き、腰を抜かしてしまいました。すると…
「あぁ、だから言ったのに。また異形の物を増やしてしまった。」
いつのまにか絵描きは村人の側に立ち、空を見上げてため息一つ付きました。

―空は既に雲もなくなり、美しい星空が輝いておりました―
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