おはなし

□生け贄
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「エマちゃんエマちゃん!」
「何」
「ほれ!」
「……!?」
さくやが満面の笑みで私に放り投げてきたのは、………何だろう?
私が訝しげな顔をしていると「鶴や。」と言ってその場でくるっと一回転した。
真っ赤な折り紙で折られたそれは、寸分の狂いもなく緻密に鶴を象っていた。

「鶴はなぁ、平和の象徴なんやってさ。わいは信じられへんけどな」
「じゃあなんで作ったの」
「なんでって………美しいやないかい」
「……………」
「あ、こら、変態を見るよな目で見るな!」
「変態じゃないですか」
「ちゃうわ!!」

正直やかましいと思う。
どっか行ってほしい。
そっとしておいてほしい――


「………エマちゃん。ジェム君がなんであの戦いで大爆発つこたか知ってるか」



――自分の命を平和に捧げるような男やで、あいつは――




またそういうことを言う。
そうやって私の左目と心を抉るのが趣味なんだ。
最低なやつ…………



「エマちゃん、……手が赤いよ」
「!!?」

そう言われて手を見ると、鶴を持っていたところが赤く色が付いていた。
これは…………血………?


「ジェム君が"平和"に捧げたものやで」



そう言って笑みを浮かべるこの人は。

「…………狂ってる………!!!」



この存在の前に、為す術もなかった。




END

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