Shape of fact
□第二章
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一方その頃、サニーは大通りにいた。手に入れたい武器が手に入り、特に行きたいところがなかったので、ミシェルを探していたのだ。ずいぶん探したのだが見つからない、と思っていると、入口に向かって走っていくミシェルが目に入った。呼び止めようとしたが真剣な顔で、あっと言う間に入り口を駆け抜けて行った。
研修の時はどんな事態になっても、冷静に対処してきた彼女が、あのように急いでどこかへ行くということは、普通ではないと悟り、通信機を取り出した。
メモに場所まで書いてくれたので助かった、とミシェルは医師に感謝をしながら、西の港の近くにあるラスティック山脈を登っていた。絶滅寸前の薬草ならば、普通の人間が行けなさそうな奥地まで行けば見つかるはずだ。そう推測して、ミシェルは魔術で奥地まで飛んで行った。
「クレオさん、通信機が鳴っていますよ。」
クレオは今、アリスと一緒にアクセサリーの店を回っていた。彼女がネックレスを新しくしたい、と言ったからだ。周囲が騒がしいということもあるが、どれもアリスに似合いそうだと、ぼーっとしながらアクセサリーを眺めていたため、通信機の音に気付かなかった。クレオは通信機を取り出し、通話可能にした。画面を見ると、発信元はサニーになっていた。
「隊長。ミシェルが今、まじで焦って港から出ていったんだけど。」
「・・・どこへ行ったか分かるか?」
少し間を置いてから、返事が来た。
「たぶん、ラスティック山脈の方向。」
それを聞くと、クレオは嫌な予感がした。なぜなら、現在ラスティック山脈には凶暴モンスターの住みかになっているため、登山する者がいなくなっているからだ。
「わかった。入り口に合流し、ミシェルを追うぞ。」
通信機から「了解」という返事を確認すると、アリスと共に店を出た。
奥地に辿り着いたが、木が密集しているため昼間であるにも関わらず、暗かった。
しばらく歩くと、見たことのない薬草を発見した。メモを確認すると、1つの薬草と特徴が一致した。ミシェルは嬉しそうにその薬草を、港から出る前に購入した袋の中に入れた。
「やった!残りは2つね!」
さらに奥に進むと、崖の近くと崖の斜面に違う種類の薬草が生えていた。再びメモと比較すると、一致した。1つを袋の中に入れてもう1つは魔術で、大きな魔法陣を作り、その上に乗ってリフトのように操って斜面に近づき、薬草を袋に入れて崖の上に戻った。
「これで全部か。なんだか楽勝・・・。」
そのまま帰ろうと、来た道を戻ろうとすると、どこからか唸り声が聞こえたため、ミシェルは身構えて詠唱を始めた。すると、前方の草むらからビースト型のモンスターが牙を出して襲いかかってきた。
「雷の精霊よ。天より堕ちて身を焦がせ。サンダーショット!」
晴れているというのに、空から雷が落ちてきて目の前のモンスターに直撃し、焦がした。ビースト型のモンスター―フェンビーストは焦げたにおいを放ち、地面に落ちて動かなくなった。ミシェルは安心したが、それも束の間、前後左右から大量のモンスターが現れ、彼女は逃げ場を失った。さすがにこれだけのモンスターを、術者が相手にするのは不可能だということを悟ると、ミシェルはもうだめだと諦めた。しかしその時、左から悲鳴が聞こえた。振り向くと、サニーがモンスターを次々と倒していた。ミシェルは、そのことに驚きを隠せなかった。
「あんた・・・!なんでここにいんの!?」
サニーはモンスターを蹴散らしながら答えた。
「たまたま、お前を見かけたんで、付いてきただけだよ。つーか、なに1人で突っ走ってピンチになってんだよ。」
サニーが苦笑すると、その後ろから誰かが飛び出してきてミシェルの背後にいるモンスターを倒した。
「大丈夫ですか?ミシェルさん。」
「アリス!なんで!?」
アリスが微笑むと、今度はすぐそばで、金属音が聞こえた。その音の方向を見ると、クレオがモンスターの攻撃を受け止めていた。
「あの医師から話は聞いている。さっさと片づけるぞ。」
と言うと、モンスターの懐に潜り、下から剣を切り上げた。ミシェルはさらに驚き、その場に立ち尽くした。
「隊長まで・・・。」
そう呟いていると、アリスはミシェルの肩に手を置いた。
「出航まであと2時間です。早く突破し、薬草を届けてあげましょう。」
ミシェルは泣きそうになりながら頷くと、詠唱に入り、アリスはミシェルを守るように戦った。
1時間程、山脈の凶暴なモンスター達を一掃し、クレオたちは港に戻っていた。医師のいる診療所に到着し、ミシェルが医師にとってきた材料を見せると、涙を堪えて目を抑えた。
「ありがとうございます。これで、ミルドは助かります。」
感動しながら答えると、奥の部屋へと姿を消した。その様子を見て、ミシェルは、安堵のため息を漏らした。
(これで、ミルドは元気になるんだね。)
微笑むと、サニーがそばに来た。
「今回引き受けたのはナイスだったけどな、1人でやるにはちょいと無理があったな。」
すると、ミシェルはふて腐れたように、ぷぅっと頬を少し膨らました。
「でも、薬草を見つけられたもん。・・・危なかったけど。」
そして、顔を伏せると、再び口を開いた。
「でも、ありがと。隊長も、アリスも。」
礼を言うと、アリスは微笑んだが、クレオは相変わらず無表情だった。彼は時計を見ると、寄りかかっている壁から体を離してドアに向かい、全員を見た。
「・・・出航20分前だ。そろそろ行くぞ。」
それを聞くと、ミシェルは急いで医師のいる部屋へ向かった。トントン、と開けっぱなしのドアを叩くと、薬を混ぜている医師がこちらを振り向いた。
「あの、もう私たち船に乗らなきゃいけないんです。ミルドに、早く良くなるといいねって伝えておいてくれますか?」
医師は作業を中断し、ミシェルを見た。
「そうですか。わかりました。伝えておきます。ミルドは本当に幸せな子だ。あなたのような人に出会えたのですから。機会があれば、またあの子に会ってあげてください。」
ミシェルは頷くと最後に別れを言い、診療所を後にした。
「ところでさ、隊長。なんで私が今回の依頼を受けたこと、知ってたの?」
ミシェルは歩きながらクレオに尋ねた。
「サニーが調べたんだ。大通りの民家から急いで金髪でポニーテールの少女が出てきてぶつかってきた、と多くの人間が大騒ぎしていたそうだ。俺達はその民家に入り、事情を聴いたんだ。」
それを聞くと、ミシェルは恥ずかしそうに俯いた。
「そうだったんだ・・・。ただ、夢中になってて、全然気付かなかった。」
そこで、サニーがフォローした。
「でもまあ、これでミルドは助かるわけだし。良かったんじゃね。」
と言い、ミシェルの肩を両手でバン、と軽く叩いた。ミシェルは顔を少し赤くして微笑んだ。
その前方で、クレオは真っ赤になった空を見上げた。
(赤・・・人の血の色・・・。)
彼は赤色を見ると辛い過去が蘇ってしまうため、赤はあまり好きではなかった。そう思っていると、いつの間にか停泊している船の前まで来ていることに気がついた。入港する橋の近くに立っている乗組員に、チケットを見せると、全員通してくれた。そして、しばらく船の中でぼーっとしながら窓の外を眺めていると、船が動き出した。