Shape of fact

□第三章
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闇の谷の北の方に進むと、森が見えてきた。森の中にはモンスターが存在せず、おとなしい動物たちや綺麗な草花がいて、周囲は光で溢れていた。ここまで来るまで、誰も口を開かず、ただ、ミシェルの後に付いてきた。しばらく、森の中を歩いていると、ようやくミシェルが言葉を発した。

「思い出したんだ。全部。私が誰なのか、どうして孤児院にいたのか。」
「教えてくれねえのか?」

サニーは真剣な顔で尋ねた。

「奥に行けば、分かるよ。全部。」

ミシェルは淡々と答えたが、背を向けているため、どのような表情をしているのか分からなかった。一同は再び沈黙を守り、周囲を見渡しながら先へ進んだ。
ミシェルは光が最も溢れ、草が生い茂っているエリアに来ると、草花でできた玉座の前に立ち、クレオ達に振り返った。そして、落ち着いた声で、耳を疑うような言葉を述べた。

「よくぞ、ここまで辿りつきましたね。」

その時、ミシェルの体が強い光に包まれた。そして、光が弱まると、そこにはミシェルではなく、長身の女性が玉座に乗っていた。彼女はカールのかかった金髪を腰まで伸ばしていた。体全体が光に包まれているため、瞳の色は無く、ワンピースの下を見ると、足も無いことが分かった。彼女は、ただ玉座の上に乗った状態で、クレオ達を見下ろしていた。

『私はミシェル・ド・バリ。現在の人間の本質を見極めるため、姿と人格を変えていました。』

突然の出来事に、クレオ達は言葉を失った。ミシェル・ド・バリは優しく微笑むと、再び口を開いた。

『あなた方に、真実を明かさなくてはなりません。まず、30年前の大規模災害について。あれは、災害ではありません。』

彼女は言葉を切ると、決意したように述べた。

「あれは、私が起こしたものです。」

クレオは目を細め、他の3人は驚いた表情をした。

「なぜ、あのようなことが、起きたのですか?」

クレオは平常心を保つと、彼女に尋ねた。

『私は、かつて1人の人間に恋をしていました。彼はこの地に迷い込み、怪我を負い、動けなくなってしまったのです。』

その時、サニーが話を遮った。

「ここは、人間が簡単には入れないんじゃなかったのですか?」
『以前までは人間も入ることを許可していたのです。そう、人も、モンスターも、精霊も、すべての生き物が、共存することが、可能だった、あの頃までは。』

意味深な言葉を残すと、彼女は目を閉じて話を続けた。

『彼は重傷でした。しかし、精霊の力を持ってすれば、助かる怪我でしたので、私が力を遣い、彼の怪我を癒しました。彼は恩返しをしたいと、しばらく、この森で私と共に過ごしていました。そして、私たちは共に恋に落ちました。しかし、それを良く思っていなかった人間が、ここに足を踏み入れたのです。』

アリス、サニー、エンジェリックはなんとか平常心を取り戻し、彼女の話を一生懸命理解しようと、耳を傾けた。

『人間達は、精霊を気高き神だと言い、人間と精霊が恋をするのは禁ずるべきだと考えていたようです。すべての生き物が平等に、共に歩んでいくと、太古に誓いを人間と結んだにも関わらず、そのような考えは、私達精霊にとって、裏切りの行為でした。そして、その人間達は、彼を銃で撃ちぬくと、歓喜の声をあげたのです。彼を失い、人間に対して絶望を感じた私は、巨大な力を使い、大半の人間の命を奪ってしまったのです。』

その時、アリスは察したように口を開いた。

「それが、30年前の大規模災害・・・。」

アリスの言葉を聞き、ミシェル・ド・バリは頷いた。

『人間達は、あれを原因不明の災害だと解釈していました。そして、人間に対して絶望した私は、精霊たちに本来あるべき姿を忘れぬ人間にのみ、加護を与えるように命じたのです。人間達は豊かさを求め、再び争いを始めました。そして、ある者がモンスターの主を刺激したため、モンスター達は凶暴化し、人間達を襲い始めました。私は因果応報だと、それを黙認していました。しかし、ある人間が接触を求めてきたのです。その者たちには、悪しき欲は無く、汚れの無い真っ直ぐな瞳をしていました。そして、再びすべての生き物が共存してゆけるような世界に戻すと、誓いを立てて下さいました。私は、人間は本当に誓いを破る生き物なのかを確かめるべく、人に姿を変えました。存在自体を変えると言うのは、精霊の力を持ってでも困難なことでしたので、その時に記憶を無くしてしまったのです。グラシャスの孤児院にいたのは、精霊の加護を受けている人間が、多かったからです。』

ミシェル・ド・バリは一息を吐くと、再び微笑んだ。

『人に姿を変えてから、様々な人間に出会いました。欲を持った人間の他にも、人々のために尽くそうとする人間もいるということを、あなた方から学ぶことができました。』

彼女は、クレオ達を1人1人見ると、彼らの目的を思い出した。

『次に、モンスターの主を刺激している者についてです。漆黒の髪、闇を抱いた瞳、負を背負う男ですね。そして、彼は超能力を持っています。』

彼女の言葉を聞いた時、アリスは胸を撫で下ろした。なぜなら、モンスターの主を刺激した人間が、最愛の人でないと、確信することができたからだ。アリスは目を閉じ、グラシャスの孤児院を出る時に、クレオから言われたことを思い出した。

『もし、モンスターの主を刺激した人間が俺だったら、迷わず、俺を拘束しろ。』

なぜ、彼があのようなことを言ったのか、彼女は理解していた。その理由は、彼の過去にあるからだ。

『ここに戻る時、精霊たちの声を聞きました。まもなく世界全体を揺るがすような危機が訪れようとしているそうです。』

クレオ達は彼女の言葉に疑問を抱き、サニーは彼女に尋ねた。

「どんな危機ですか?すべての生き物に関わることだと?」

彼の質問に、ミシェル・ド・バリは頷いた。

『詳しいことは存じませんが、人間も、精霊も、モンスターの存在が危うくなるでしょう。・・・あなた達の助けになる人物が、近い内に現れるでしょう。私は、再び人間に姿を変え、行動を開始します。』

そう言うと、ミシェル・ド・バリは再び眩い光に変わり、光が消えると、精霊ではなく、ミシェルが玉座の前に舞い降りた。

「・・・行こう。大事になる前に、止めなきゃ。」

サニーは、横切って入口に向かうミシェルを見たが、どうしたらいいかわからず、立ちつくしながら言った。

「・・・はい。」
「やめて。」

ミシェルはサニーの返事を聞いた瞬間、ピタッ、と足を止めた。

「やめてよ。今、私はただの人間なんだから。今までと、同じようにしてよ。」

彼女が悲しそうな表情で言い、先に行ってしまった。
初めて見るミシェルの様子に、エンジェリックは戸惑い、彼女の後を追った。クレオ達は彼女たちの様子を見ながら、歩き出した。





























入口に着いた時、クレオの通信機から音が聞こえた。クレオは通信機を取り出し、通信機のボタンを押した。

『こちら、ユーティリティー連絡部!クレオ・ユスト隊長、応答願います!』

慌ただしい様子に、クレオは何かあったのかと考えながら、返答した。

「こちら、クレオ・ユスト。どうした?」
『本部が、何者かに襲撃されています!本部に残っている隊員達が追撃したのですが、次々と負傷しています!至急、援護をお願いします!』

ユーティリティーは優れた戦闘能力を持った人間を集めているため、本部が襲撃に遭わないだろうと考えていたので、クレオ達は驚き、急いで、入口を潜り抜けた。その時、白髪の男が頭上から降りてきた。そして、アリスの目の前で膝を附き、頭を下げた。

「ようやく見つけました。御同行を願います。アリス・ミリア・ルーテル・クラウン様。あなたの本当の故郷へ、お連れ致します。」

アリスは、突然のことで驚いたが、落ち着きを取り戻し、男に尋ねた。

「あなたは、どなたですか?私は、アリス・カーティアスですが。」

男は頭を上げ、アリスを見た。彼は、前髪を顎の下まで伸ばし、顔の右半分を髪で隠していた。瞳は透き通るような赤で、宝石を連想させた。

「私は、シンシア・クルーエルと申します。国王に仕えており、本来であれば、あなたにもお仕えするはずでした。」
「何を言っているのですか?意味がわかりません。」

早く、本部に行かなければならないのにも関わらず、謎の男に足止めをされ、アリスだけではなく、クレオ達も苛立ちを感じ始めた。
それを感じ取った謎の男―シンシアは、耳を疑うような発言をした。

「あなたは、かつて我ら一族の女王となる方でした。誕生されて間もなく、我らの国から出て行かれ、そして人間に育てられました。あなたを探すため、各大陸で情報を集めていたところ、ユーティリティーで働いているという情報を手に入れました。」

その時、サニーが口を出した。

「何言ってんだよ。一族って、お前は、アリスの本当の身内ってことなのかよ。」

シンシアは冷たい視線をサニーに向け、答えた。

「我らは、かつて、お前達人間が追放した、超能力を持つ、ゲハイムニス族だ。」

彼の言葉に、クレオ達は驚いた。なぜなら、超能力者は遺伝子の突然変異だと、言われているからだ。その事を、ミシェルが彼に伝えると、シンシアは目を細めた。

「なるほど。一族から人間の世界に自分の子を逃がす者が増加してから、人間の間では捏造されているのか。超能力者は、人間の遺伝的な突然変異だと。」

シンシアは立ち上がり、アリスを見た。

「あなたは我々の元に帰るべきです。事実から目を背けている、人間達と、共にいることはありません。拒否をするなら、力ずくで連れて帰ります。」

アリスは、首を横に振った。

「私は、あなたと一緒に行けません。ここには、私を受け入れて下さる方が沢山いらっしゃいます。・・・お引き取り下さい。私達は、急いでいるんです。」

アリスが返事をした時、シンシアは彼女の腕を掴んだ。それと同時に、クレオは剣を抜いたが、動き出す前に、見えない力で地面に押さえつけられた。歯を食いしばり、起き上がろうとしたが、彼の力では敵わなかった。
シンシアは、クレオを侮蔑を含んだ目で見た後、さらに超能力を強めた。クレオは押し潰されそうな感覚に、叫び声を上げた。それを見て、アリスは涙目になりながらシンシアに懇願した。

「クレオさん!嫌!止めて下さい!死んでしまいます!」

シンシアは力を使ったまま、アリスを見た。

「あなたが、私と共に来て頂ければ、止めます。そうでなければ、ここにいる人間を全員殺してから、あなたを連れていきます。」

アリスは顔を歪め、決心したように答えた。

「分かりました。」

アリスが返事をしたのを見て、ミシェル、サニー、エンジェリックは驚いた。シンシアだけが、微笑みを浮かべていた。

「分別のある方で、安心しました。では。」

頭上から聞こえてきた話を聞いて、クレオは声を振り絞った。

「駄目だ・・・っ!アリス、行くなっ!」
「黙れ。」

シンシアは、再びクレオを見下ろすと、さらに力を強めようとしたが、アリスに止められた。

「止めて下さい!私は、一緒に行きますから!クレオさん。私は大丈夫ですから、早く本部に戻って下さい。」

アリスは、切ない表情をして、シンシアに向き直った。すると、あっという間に2人は消えてしまった。それと同時に、クレオにかかっていた超能力も解けた。クレオは、アリスを奪われた不甲斐なさに、地面を殴った。

「くそっ!アリスっ!」

初めて冷静さを失っている彼を見て、他の3人は呆然としていた。
しかし、クレオはすぐに落ち着きを取り戻し、立ち上がった。

「・・・すぐに本部に戻るぞ。時間がかかってしまった今となっては、事態は深刻化しているはずだ。」

その時、ミシェルのオーブが光出し、ヴァッサーが出現した。

『急ぎならば、我を使うと良い。行き先を言え。』

ヴァッサーの言葉に、ミシェルは慌てて首を振った。

「とんでもありません!精霊に、そのようなことは―。」

ミシェルの言葉を遮るように、ヴァッサーは言った。

『構わぬ。我はお主たちに力を貸すと言ったはずだ。さあ。』

精霊にそこまで言わせておいながら、断る方が失礼になると、ミシェルは観念し、行き先を言った。すると、視界が白くなり、体が浮いたと思ったが、気がついたら、ヴァッサーの上に座っていた。クレオ達は初めての感覚に驚いたが、ユーティリティーの襲撃を思い出し、すぐに気を引き締めた。
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