Shape of fact
□第二章
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第二章
港に着いたクレオ達は、出航までそれぞれ時間を潰すことになった。クレオとアリスを二人きりにするため、サニーとミシェルはどこかに行った。そのことに気付いたクレオは呆れてため息を吐いた。
(あいつら・・・。)
態度があからさますぎる、と思った時、アリスはひょこ、っと彼の視界の隅から姿を現した。
「まだまだ時間はありますから、ゆっくりしましょう。」
と、クレオの手を引いて歩き始めた。
様々な店を横切りながらミシェルはそれらを眺め、楽しんでいた。サニーはというと、気になる武器が売っている店を見つけた、と言って1人でどこかに行ってしまった。
「店をまわるの、久しぶりだなー。しばらく研修でバタバタしてたから・・・ん?」
どこからか、ヒラリとピンク色のハンカチが落ちてきた。ミシェルはそれを掴むと、両手で広げてみた。すると、左端にイニシャルがマジックで小さく書かれていた。
「M・S・・・?誰のだろ。」
見上げると、2階の窓からこちらを見ている少女がいた。もしかしたらあの少女のものではないかと思い、ミシェルは近くの家に入るため、そのドアをノックした。すると、少女が口を開いた。
「今、家に誰もいないの。横にある非常階段から入ってきて。」
ミシェルは言われた通り、家の横にすぐある非常階段を使い、ドアを開けて中に入った。
入って右に曲がると部屋のドアが開いており、中を覗くと先ほどの少女がベッドの上からこちらを見て微笑んだ。
「拾ってくれてありがとう。私、ミルド・ソリテリーっていうの。あなたは?」
ミシェルは少女の茶髪で長い髪が太陽の光に反射しているせいなのか、少女自身が輝いて見えたので、思わず目を細めた。
「ミシェル・フィリーよ。はい、これ。」
ハンカチを少女に渡して部屋を出ようとしたとき、後ろから呼び止められた。
「待って!夕方まで私、1人なの。一緒にお話ししましょう?」
思いもよらない提案をされ、ミシェルは戸惑ったが、せっかくなので少女と時間を潰すことにした。
「私も丁度、夕方の船に乗る予定だから、いいよ。それまで、時間潰そう。」
と、彼女はそばにあった椅子に座った。近くでよく見ると、ミルドは自分とそんなに歳が変わらないように見えた。
「なんでベットにいるの?病気?」
ミシェルの問いに、ミルドは頷いた。
「ええ。とても重い病気なの。小さい頃にかかっちゃって。おかげで外に出られないまま大きくなっちゃった。だから人とお話しして、外の世界の話を聞くことが、私の唯一の楽しみなの。」
ふと、ミシェルは疑問が浮かんだ。
「知り合いがいるの?」
しかし、ミルドは首を振った。
「私、特定の人と仲良くなれないの。外に出られないし。」
そこまで言うと、バツの悪そうな顔をして俯いた。
「・・・だから、いつも窓からわざとハンカチを落として誰かが拾ってくれるのを待っているの。」
そして、ミシェルを見た。
「ごめんなさい。親切に拾ってくれたのに。でも私、そうでないと人と繋がれないの。」
ミシェルは怒ることなく、ミルドの頭を撫でた。
「仕方ないよ。寂しいもんね、ずっと寝てなきゃなんないもん。」
ミルドはほっと胸を撫で下ろしたが、急に胸を押さえて苦しみだした。ミシェルは突然のことに驚かずにはいられなかった。ミルドは電話を指した。
「メモに・・・先生の、番号が、書いてあるっ・・・・からっ・・・早く、連絡を・・・っ!!」
ミシェルは急いで電話に向かい、メモを見らがらボタンを押した。
「もう大丈夫です。しばらくしたら、目が覚めます。」
先程まで苦しそうにしていたのが、今では規則正しく呼吸をして、ミルドは眠っていた。
ミシェルは耐えられず、医師に尋ねた。
「ミルドはなんの病気なんですか?治るんですか?」
医師は見知らぬ少女に質問され、少し戸惑ったが、すぐに納得したように首を軽く縦に振った。
「ミルドは、また通りすがりの人に迷惑をかけたんですね。あんなに止めるように言い聞かせたのに。」
医師の言葉に、ミシェルは拳を握った。
「そんな・・・。ミルドは寂しかったんですよ!窓からハンカチをわざと落として、拾ってくれた人としか関われないんです!」
ミシェルは怒りをむき出しにしたが、医師は落ち着いた様子で答えた。
「しかし、世の中には危険な人間もいます。ハンカチを拾ってくれたからといって、その人が良い人間であるとは限りません。今回は心優しい人にめぐり会えたようですが、目が覚めたらもっときつく言い聞かせないとこの子の残り少ない寿命を縮めることになるかもしれませんから。」
ミシェルはその答えに、顔をひきつらせた。
「寿命が・・・残り少ない?どういうことですか?」
医師はため息を吐いて口を開いた。
「この子は高確率で死に至る病気にかかってるんです。特効薬の材料は今も存在するかどうかわからないもので作るため、現代医療では薬でできるだけ長く余命を延ばすぐらいしかできません。しかし、長年その薬を服用し続けたせいで体に抗体ができてしまい、効かなくなってしまいましたから、もう手の施しようがないんです。」
「その・・・特効薬の材料はなんていうんですか?」
ミシェルは真剣な顔で尋ねると、医師は驚いた。
「まさか、探しに行くと言うのですか?無茶ですよ!今では文献に載っているだけの存在で、ほぼ絶滅しているんですから!」
「『ほぼ』っていうことは、まだわずかに残ってるってことでしょう?」
医師は、窓の外を見つめながら言った。
「仮に存在していたとしても、とても危険な場所に生息しています。素人では簡単に入れませんよ。」
ミシェルはポケットからユーティリティーの隊員カードを出して見せた。すると、医師は
息をのんだ。
「大丈夫です。特効薬の材料の捜索ということで、私が依頼として引き受けます。先生だって、できるならミルドを助けたいと思うでしょう?」
この港に着く前にクレオから任務の途中でも、可能なら他の依頼を受けてもいいと言われていた。これを『副業』言い、より多くの人を助けることができるため認められているのだ。
医師は決意したように頭を下げた。
「すでに、さじを投げましたが、そういうことなら、お願いします。」
その答えにミシェルは満足したように微笑んだ。
「任せてください。必ず、見つけてみせますから。」
そう言うと医師は頭を上げ、メモ帳に何かを書いた。
「特効薬の材料です。特徴も書いておいたので、すぐにわかると思います。」
ミシェルはメモを受け取ると礼を言い、走って外に出た。