蒼紅 DS小説

□オトンとオカンの喧嘩
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気まずい雰囲気の中、二人の目の前にグラスが置かれた。
見上げると店の女将がおごりと言って差し出された。

「さっきから聞いてたけど、あんた達は二人を信用してないのかい?
若い内はさ熱く燃えあがっちまうんだよ。あんた達もそうだったろ?
周りがとやかく言っても駄目。今は様子を見て悪い方向に行ったら大人が正せばいいんだよ」

しばしこの店を利用する内女将は事情を知って、こうして相談に乗ったり、たまに叱ってくれる。
女将の言うことは的確だし、そうだと分かってるのだが…
素直に受け入れられない捻くれた大人達は複雑な思いに駆られた。

「それはわかってるんだよ〜」

女将に振る舞ってくれた酒を飲みながら佐助は情けない声を出した。
小十郎もはぁっと溜息をついて酒を飲みほした。
忍びとの会話も何の解決にもならないので、小十郎自身疲れてきていた。

認めてないわけじゃない…

実際あの小僧…真田は真面目で何事にも真剣だ。
武道にも長けて、政宗様と戦っている時の闘志の輝きは半端じゃない。

小十郎は幸村の真っ直ぐなあのキラキラ輝く眼差しを思い出していた。

空のグラスを置き、小十郎はつぶやくように言った。

「真田と出会ってから、政宗様は少し変わられた。政務もサボったり、突然遠乗りにいかれたり、
目を離すとすぐどこかに行ってしまったり…。
それが最近は真面目に書物などに目を通され、政務もちゃんとこなしたりしている…」

佐助もその言葉に反応し、ふっと息を吐いた。

「確かにうちの旦那も変わったよ」

小さいころから素直ですくすく育った幸村は真っ直ぐで情が厚く、人を疑うことも知らない、
誰からも慕われ愛されてきた。

「旦那は真面目過ぎて融通が利かないことがあって、一つのことを決めたら最後までやり通す信念は凄いけどさ…
たまにはハメをはずしたらいいのにって思ったりしてたんだ…」

佐助はまた女将に酒を頼んだ。一口飲み、

「そう…竜の旦那に会ってから、旦那は少しづつ外に目を向けるようになって…夜更かししたり、こっそりお菓子を食べたり…」

はは…可愛いもんじゃないか…と小十郎は心の中で微笑んだ。
佐助のつぶやきは続く。

「今思えば…竜の旦那をまねて夜中馬に乗ってどっか行って朝帰ってきたり…」

佐助は急に声を低くブツブツ言いだした。何か自分の世界に入っている。
それが何か聞こえず、小十郎も静かに残った酒を呷った。
女将に振る舞ってもらった酒が強いものだとは後で知った。

「しかし真田は真面目の塊だな。塊魂…なんちゃって…はは」

小十郎も酒の力もあいまって、重苦しい話題は避け、酔いが陽気な気持ちにさせた。
女将に酒のおかわりをもらって呷っていると、隣の忍びはまだブツブツ言っていた。

「どうした?忍び」

佐助は鋭く暗い眼差しになっていた。

「…だったんだよ。俺様に旦那があんなことを言うなんて!」

だんっ!と佐助はカウンターのテーブルを激しく叩いた。

「あの男まじ許すもんか!」
「忍びどうした!?」

佐助はきっと睨んで振り返り、

「旦那があんな不真面目になったのはあの男のせいだ!我儘で傍若無人!不良ヤンキー!
変に自信があって気にいらん!」
「落ちつけ忍び!」
「落ちつけるかよ!大体アンタの教育が悪いんだ。あんなやんちゃボーズ野放しにしやがって!」

佐助の異様な豹変におののいた小十郎ではあったが、あまりの暴言の数々に我慢の限界が来ていた。

「もう我慢ならねぇ、政宗様に対する愚弄の数々…この小十郎ゆるさねぇ」
「出た!w政宗様政宗様ってアンタら、ウザイんだよ!」

けらけら小馬鹿にした佐助に対して、小十郎はためらわず拳をぶち込んだ。
何かを察した女将が慌ててやってきて、

「ちょっとー!喧嘩なら外でやってくれよ!」

そんな女将の言葉ももう既に届かず、これから起こる修羅場は止めようがなかった…。
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