蒼紅 DS小説

□オトンとオカンの喧嘩
1ページ/4ページ





ここはさびれた郊外の端にある飲み屋。
その店内に二人の客がいた。

「はぁ〜やんなっちゃうよ」

一人の男―――風貌は樹木に隠れるのに適した迷彩服を身に纏いスラリとした体形は身軽さが伺える。
いく戦も修羅場をこなしたかであろう鋭い眼光を放ち、端麗な顔立ちには僅かの陰りが落ちていた―――甲斐の忍び、猿飛佐助は溜息をつきながら呟いた。

「……お前の言いたいことはわかる」

佐助の隣にはもう一人男―――主を守ってきた傷は勲章なのだろう、顔の傷が尚も男らしさが醸し出されている。
体格も良く、落ち着いた雰囲気だが心の奥は熱い情が秘めてる―――竜の右目と呼ばれている片倉小十郎その人であった。

佐助は酒をまたがぶっと飲み干した。

「はぁ〜まったくうまくいかないからさ〜」

この飲み屋にきて何回溜息をついたのか、いささか呆れながら小十郎は言葉を発した。

「あまりに事が運びすぎても不安にもなる…」

冷静かつ物事を慎重に段取りを決める小十郎の言葉に佐助も納得せざるを得ないのだが…

「そ〜だけどさ〜」

既にできあがっていた佐助は空のグラスを振りながら

「女将!おかわり!」
「おい、飲みすぎじゃないのか」
「別にいいじゃん〜たまには」

呂律が回ってない。
頼んだ酒をまた一口飲み

「はぁぁ〜なんだってさぁ〜あの二人がさぁ〜」
「…」

飲みに行こうと佐助に呼び出された時点でわかっていたが、
主たる政宗様の想い人が好敵手である真田幸村だった時さすがにショックは受けた。

政宗様が真田を家に招き入れたときからうすうす感じてはいたが…とても複雑な思いをした。
拒否をする理由がない。…というより出来るわけもなく…。

そんな時やはり事情を知った忍びが接触してきたのは自然な行為だったのかもしれない。
それをきっかけでこうしてたまに情報収集などで呼び出されることもあったが、
今回は忍びがやたら落胆してるのをみてこの件は終結の方向に向かってるのかもしれない…と思った。

「だってさぁ、旦那真剣なんだぜ。旦那の顔見てたらさ俺様すっごく、この辺りがさきゅううっと締め付けられるんだぜ」
「あんな奴に…ああ片倉の旦那今日は言わせてくれよな。主人がどうとか無しね」

小十郎は ああとうなづいた。

「は…俺様としてはさ旦那には可愛いお嫁さんを貰って子供を産んでもらって、孫の世話を楽しみにしてたわけだよ…。
それがそんな未来も無くなったわけだよ…」

佐助はつっぷしてがくーっとしてみせた。

「旦那みたいな真面目でまっすぐな子を育てるのが夢だったのに…」
「…(自分で嫁もらえばいいのに…真田もいい迷惑だ)」

とは言えずに小十郎は静かに聞いていた。

忍びが接触してきた頃からあの二人を別れさせよう計画を思いついたわけだが…
あの二人の結びつきはそうそう切れるものではなかった。

「片倉の旦那。何をうちの旦那にしむけたかわからないけど、強制送還はないんじゃないの?
帰ってきたくれたのは嬉しいけど、悲愴にくれた旦那が痛々しかったよ…」

「いや…大したことは…ただ政宗様が元気になるように料理を作ってやってくれって言っただけだが…」

といって小十郎は眉を潜めた。

「料理出来ないってわざと…ねぇ」

佐助はちょっと不機嫌になった。

「まさか…政宗様の命を脅かす程…とは…」

小十郎は思い出してあわあわと口元を覆った。
佐助はむかむかする胸を押さえて

「反省するんだな」

と冷たく言い放った。
しばしお互い無言の時が流れた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ