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□もう一つの『いつも考えて』
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〜〜『いつも考えて』5ページ目より〜〜


「こりゃぁ…ちっとばっかしマズったか?」

ギロロとの通信を切り、最大出力で爆発音を響かせたクルルは予想通り大勢の敵に囲まれていた。
といっても、敵からクルルの姿は認識出来ていないらしく、クルルの周りをウロウロしているに過ぎない。
これはクルルが敵から自分を認識させない防御装置を使っているのだが、簡易的なそれには時間制限があり、発動時間は15分間。
既に13分が経過している為、後2分以内にギロロが到着しなければ非常にマズイ事態となってしまう。

「毒電波で飛ばしちまうって手もあるが……種族がごっちゃだからなぁ」

種族により効果的な波長が違う為、それぞれに合わせて変えなければいけないのだが…ここには数種族の敵がいる。
しかも先程までの通信や爆発音、不可視システムの使用などで充電切れ寸前。
これが発動している間に距離を取って身を隠すのが一番だが、それではギロロと合流出来なくなってしまう。

「やっべぇーかもなぁ。ククッ」

言葉とは裏腹に、クルルはとても楽しそうだ。
というよりも、最悪の状況を一切考えていないみたいな、そんな感じがする。

――ピピィーッ!ピピィーッ!

だが、そんなクルルに最悪の状況を知らせる警告音が鳴り響いた。

「チッ、充電切れだ…」

15分もあれば必ずギロロは到着する。
そう自信があったクルルだったが、ヘッドフォンの方がどうやら持たなかったらしい。
この警告音が10秒間鳴った後、システムは停止する。
そうすればクルルは多数の敵に囲まれ、最悪・・・。

「だからってココを動くワケにゃぁいかねぇしなぁ…」

悩んでいる時間はない。
クルルは武器らしい武器を何一つ所持していなかったが、それでも逃げるという選択肢もなかった。

「俺も軍人だって啖呵切っちまったし、やるっきゃねー」

隠れていた間に見付けた丈夫そうな木の枝を手に取る。
と同時に警告音が治まった。
突然現れたクルルに気付くも、敵はクルルを警戒して様子を伺っている。

「来るなら来やがれ…」

口の中で小さく呟くと、前方の敵が動いた。
グッと枝を構え、一歩踏み出すクルル。
が、次の瞬間、視界が揺らぎ衝撃が走った。

「クルルッ!」

何が起こったのか分からない中、目の前いっぱいに広がる赤。
それはとても鮮やかで、とても愛おしかった。


*・*・*・*・*


「ったく、無茶をしおって…、」

ブツブツと文句を言いながらクルルの擦り傷を手当てしていくギロロ。
先程の戦闘で、果敢にも立ち向かおうとした結果だ。
ギロロの為にも逃げて位置をズラすわけにはいかない、なんたって爆発音はあの一度しか出せなかったのだから。
これを失敗してしまえば今度はギロロがそれをやり、彼を自分の何倍も危険に晒してしまう恐れがある。
だから立ち向かった。
ここまでは良かったのだが…、鈍った身体は慣れない足場にグラついた。
そこに現れた悪魔なヒーロー。
あの大群相手にかすり傷一つ負っていない。
何とも自分のカッコ悪さだけが浮き彫りになってしまった瞬間だった。

「ムチャしてんのはどっちだよ」

本当は声を大にして言っても良い筈だった言葉だか、逆転してしまった立場上、ボソリと呟いた。
まるで、小さな子供が親にするささやかな反抗の様で、ギロロはクスリと笑ってしまう。

「なっ!?ホントのコトだろ?
 こんなトコ入って来ちまってよぉ」

不貞腐れた様に言うクルルに、ギロロは会ったら絶対に強く言ってやろうと決意していた意志が吹き飛んだ。

「そもそも貴様がこんな事を計画したから悪いんだろう?」
「そりゃぁ…、そうだけどよ…」
「で?その理由は何なんだ?
 さっきはああ言っていたが、ただの暇潰しではないよな?」
「ククッ、残念ながらただの暇潰しさ」
「嘘を吐け。
 昔の俺ならばその言葉を信じて怒り狂っただろうが、今の俺は騙せんぞ?
 伊達に貴様を見とらんからな」
「んだよ、ソレ…」

自信満々に胸を張って言うギロロ。
自分がとてつもない爆弾を落としているとは思いもしないだろう。

「ソレって…、俺への見方が変わったってコトかい?」
「あ!と言っても、いつも見ている訳じゃないんだぞ?
 ただ、居ると目に付くと言うか、気が付くと見てしまうってだけで……」

徐々に赤くなっていくクルルに、ギロロは漸く自分がマズイ発言をした事に気が付いた。

「ち、ちがっ!
 元々尊敬していたから気になるだけだっ!
 す、好きだからでは、なっ、ないぞっ!?」

誰もなんも言ってねーよと心の中で悪態を吐いてみる。
だが、実際は声すら出ない程に動揺している。
クルルをそうしてしまった原因の男は、両手で頭を抱えながらしゃがみ込んでしまった。
どうやら頭の中はパニックを起こし、自分が今何を口走ったのか正確に理解していないみたいだ。
それでも、自分が慌てれば慌てただけ墓穴を掘るタイプだと知っているギロロは、必死に息を整え、落ち着こうとしている。

「…俺は…『見方が変わったのか?』って聞いただけだったんだがなぁ」

ギロロは恐る恐る顔を上げる。
バレてしまった自分の本心に、次は何を言われるのかとビクビクだ。
ギロロとクルルは性格が合わないとされているから当然だろう。
その事は以前、クルルズラボで憧れと恋について聞いた時にも感じた事だった。
だが、その一件があったからこそギロロはクルルを意識する様になってしまったのだ。
自分とは違う意見を持ち、同様の悩みを抱える同士。
純粋に応援したいと思った、力になりたいと思った、クルルが想いを寄せる相手を知りたいと思った。
そして気付いた時には一日中彼の事を考え、分からない相手にモヤモヤする日々を送っていたのだ。

「見方ドコロか意識まで変わっちまったのかい?」

相手は未だ不明なものの、クルルには想い人がいる。
自分にも想い人がいる事をクルルは知っている。
なのに今はその想い人よりも、単なる仲間であるはずだった、同性であるクルルの事の方が気になってしまっている。
当然、知られてしまえば呆れられるだろうし幻滅されるだろうと思っていた。
けれど、聞こえて来た言葉は皮肉めいた物言いだったが、その顔は赤く染まり嬉しそうに見えた。

「ドン引き、するなよ?
 …それと、俺の勘違いなら勘違いだって…ハッキリ言ってくれ」

クルルはそう言うと一度ギロロから視線を外した。
小さく深呼吸をして、何かを強く決意しているのが伝わって来る。
ギロロも無意識に拳を握り、唾を飲み込んだ。

「俺…」

ゆっくりと視線を戻したクルルが口を開く。

「俺…、ギロロ先輩が……」

クルルらしからぬ震えた声がギロロの緊張を高める。
それは恐らく自分が知りたいと望んでいた事。
しかし、まだクルル程の決意が固まっていない今の自分がそれを知ってはいけない事。

「先輩の、コトが…」

それが分かっているのにギロロはクルルの言葉を止められない。
止めてしまいたくないと心が身体を拘束してる。
もしもそうしてしまったら、クルルはもう二度とそれを言ってはくれない気がしたから。

「……………」

ドキドキと高鳴る心音は続く言葉を恐れてか、それとも期待してか。
口を噤んでしまったクルルもきっと同じ事を考えているに違いない。
実際、クルルは迷っていた。
今なら間に合う、誤魔化す事もなかった事にする事も出来ると。
でもきっともう自分は止まらないだろうと分かってもいた。
だから―――

「………好きだ」

告げるしかないのだ。


 
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