SS

□ためらうことなく
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ここは、森の奥深くに位置する小さな雑貨屋さん。
住居を兼ねて作られているこの小屋の住人はたった一人。
赤毛を両サイドの高い位置から二つに結んでいる少女だけ。
整ったキレイな顔立ちに、幼さの残るキラキラとした瞳が印象的だ。
だがその瞳には、気の強そうな、しっかりとした意志が感じられる。
下手な事を言おうものなら、何倍にもなって返ってきそうだ。
けれど、彼女を取り巻く雰囲気はとても穏やかで優しい。

彼女は毎日、鼻歌を歌いながら美味しそうなお菓子や小さな人形、可愛らしい洋服やカバーなどを作って過ごしている。
雑貨屋というからには、当然それらを商品として店頭で販売している訳なのだが…、客は滅多に訪れない。
何せ旅人や迷い人ですら、数ヵ月に一度、訪れるか訪れないかという辺鄙な場所だ。
一番近い町でも、丸一日歩かなければ辿り付けない程に離れている。
加えてここは“魔女に魅られる迷いの森”と言われ、恐れられている曰く付きの森。
気に入った者を術で惑わし、魔女が飽きるまで永遠と森の中をさ迷い歩かせ続けるとか。
森の奥に魔女が棲んでおり、入って来た人間を誘惑しては食らってしまうとか。
そんな恐ろしい伝説が語り継がれている。
が、実際にどうだかは不明だ。
そんな事実があったという証拠が存在している訳ではないし、書物一つ残されていない。
恐らく、子供達が無闇に森へ入り込まない為の作り話が発端だろう。
そんなおとぎ話でも、時と共に信憑性が増し、迷信から確信へと変わって行くもの。
闇の中で見た動物の影を魔女だと勘違いしたり、道に迷った旅人の話しを魔女のせいだと思い込んでしまったり。
時にはソレを利用して色々と誤魔化してみたり。
故に、真相云々とは関係なく、今では好き好んで森へ入ろうとする者はいない。
それでも、彼女の作った物は人気があり、コレクターの間でも有名だ。
いつしか怖いもの知らずな商人が、遥々買い付けにやって来るまでになっていた。

――カラン。

数日に一度しか開かれない扉が開いた。
奥のキッチンにいた少女が顔を出す。

「いらっしゃいませ…あら?初めて見る顔ね」

ニッコリと微笑んだ少女の瞳に映ったのは、目を引く赤い身体の小さな人物。
ギロリとした目と顔を斜めに横断する傷跡が印象的だ。
メルヘンチックな内装には場違いとも思えるその人物からは、有無を言わせない威圧感を感じたが、少女はその人物が恐くなかった。
見る者を怯ませる怖い顔付きよりも、小さくて丸っこいフォルムが可愛らしくも見えたからだ。
それに、威嚇する様に睨み付けている割には、殺意や敵意の類いは感じられない。
どちらかといえば“見定められている”といった感じだ。
現に、少女に笑顔を向けられた赤い人物は、顔を少し赤らめて一瞬だけ俯く。
それでも直ぐに顔をあげると、表情は崩さずに、二・三歩部屋の中央に入って来た。

「これを作ったのはお前か?」

赤い人物は部屋をぐるりと眺めながら少女に問い掛ける。
少女は笑顔を崩さずに答えた。

「ええ、そうよ。
 ここには私一人しか住んでいないもの。
 あ、そうだ!今クッキーを焼いたの。
 食べて行かない?」

言うが早いか、少女は相手の返事も待たずにキッチンへと消えて行った。
少々強引に話しが進んで行く事に、赤い人物は戸惑い、また顔を赤らめる。


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