SS

□恋愛なんてそんなもの
2ページ/5ページ


授業終了を告げるチャイム。
先生の号令。
騒がしくなる教室内。
待ちに待ったランチタイム!

「夏美〜!お昼食べよぉ〜」
「うん!今行くー」

今日も今日とて変わらぬ風景。
仲良しのさつきとやよい。
それから小雪ちゃんの四人で机を囲む。
大好きな友達と色々なお話しをしながら食べるこの時間。
この一時があるから、退屈な授業も、嫌な勉強も、み〜んな我慢出来ちゃう。
しかも今日は・・・


――ピンポンパンポン…

『これから、お昼の放送を始めます』


澄み切った青空のように爽やかな声が、教室中に響き渡る。
古びたスピーカーから流れてくるのは、ノイズ混じりでとても良いとは言えない音質のはずなのに、そんなこと全く気にならない。
ドキンッと高鳴った胸はそのまま速度を増していく一方。

「あれ?この声、サブロー先輩じゃない?」
「あ、ホント〜。
 夏美、知ってた…みたいだね」
「え?なにが?」

事前にサブロー先輩から今日のDJ担当だと聞いてた私は、みんなが驚く中、一人口元が緩んでる。
もしかしたら口元だけではなかったのかもしれない。
友達が呆れた笑顔を浮かべながら溜息を吐き「やれやれ…」と言ったから。
その反応に恥ずかしくなった私は、少し大きめの声でいただきますの号令を掛ける。
それを合図に、みんなもお箸を動かし始めた。
スピーカーからは、今日の献立を読み上げるサブロー先輩の心地良い声。
あまりもの美声に思わず聞き入ってしまう。

「夏美!ボーッとしてるとこぼすよ?」
「え?あっ!!」
「大丈夫ですか!?夏美さん!」
「あーぁ、だから言ったじゃない…」
「でもスープじゃなくてよかったね」

口に運び損ねたおかずがご飯の上に落ちただけで、被害は全然なかったんだけど…さっき以上に恥ずかしい。
とりあえずひきつった笑顔を返して、慎重に手を再開させる。
あまり浮かれすぎないようにしなきゃと心の中で固く誓っていると、サブロー先輩イチオシという曲が流れ始めた。

『俺のイチオシだから、聴いてね?夏美ちゃん』

今朝サブロー先輩に言われた言葉と眩しい笑顔が蘇る。
途端、誓いが消え失せてしまったのは言うまでもない。

「ん〜、幸せ〜♪
 サブロー先輩イチオシの曲でご飯が食べれるなんて!」
「クスッ、全く夏美ったらぁ〜。
 またこぼすよ?」
「ホーント、好きだよねぇ〜?」
「すっ!?すすす、好きとか!そ、そんなんじゃ…!!
 た、ただの、ああ、憧れってゆーか……」
「憧れも好きの内じゃん!ね、やよい」

「そうそう」と笑いながらやよいにまで賛同されてしまった。
そう言われちゃうと何も返す言葉が見つからなくて…。
私はただただ赤面するばかりで、小さく唸りながらお箸をくわえてみる。
た、確かに憧れは好意だから?
す…好き、の分類に入るかもだけど…。
やっぱり憧れは“憧れ”であって、“恋の好き”とはちょっと違うような気もするし…。
それに・・・

「そういえばさ!サブロー先輩の声って、623さんに似てない!?」

さつきの明るい声に、トリップしかけていた意識が呼び戻される。
てゆーか、私は今…な、何を考えてようとしたのよっ!?
頭に浮かび上がって来たモノを消し去るように首を左右に振る。

「あ!私もそれ思ったー。
 雰囲気とかも何となく似てるよね!」
「そういえば、匂いも似てますねぇ〜」
「な、何が?」
「だぁかぁらぁ〜、サブロー先輩と623さんよ!」
「…へ?」

私が必死で答えを探ろうと自問自答している間に、話題は何やら思いもよらぬ方向へと流れていたみたい。
てか小雪ちゃん、匂いって…。
と、ツッコミたくなったのは私だけ?

「案外623さんって、サブロー先輩だったりして!?」
「えぇー!?」

まさかの発言に驚いた。
私は、芸能人がそんな身近にいる訳がないと思い込んでいたから。
だから、二人が似てるとか、ましてや同一人物だとか、考えたこともなかった。
二人共、不思議な人だなぁとは思ってたけど。
私にとっては、サブロー先輩も623さんも、とっても素敵で憧れの…手の届かない存在。

「夏美って、そういうトコ単純だよねぇ〜」
「た、単純って何よぉ〜」
「素直って意味よ」

信じられないというのが顔に出てしまっていたらしい。
気付いたさつきにすかさずからかわれる。
やよいがフォローしてくれてるけど、褒められてる気がしないわ。

「ま、素直じゃない所もあるけどねぇ〜。
 あんなに先輩先輩って言ってるのに、好きだって認めなかったりぃ?」
「そっ、それは…」
「やっぱり夏美さんは、私よりサブローさんが好きなんですか!?」
「こ、小雪ちゃん…」

それはそれで、また意味が違うような…。
小雪ちゃんって、感覚がちょっとズレてるのよねぇ…。


 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ