SS

□誰よりも君を
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遠い日の約束。
君は、覚えてるだろうか?


*・*・*・*・*


訓練所にいた頃、“真の強さは心の強さである”と、ことあるごとに言われてた。
どんなに力が強くても。
どんなに武器が扱えても。
どんなに素晴らしい作戦であろうとも。
それをする本体核が弱ければ何の意味もない。
そんなの当たり前のことだし、いちいち言われるまでもないと、子供である自分達はあまり深く捉えていなかった。
教官にしてみれば、長年同じように兵士を育てているんだから、こちらの思考なんか丸分かり。
甘ちゃんなことを考えてる幼き予備軍兵達に、より過酷なプログラムを突き付けて来た。
実際に命を落とすことはないと分かっていても、そう感じずにはいられない。
いや、中にはかなり危うい状態にまでなった者もいる。
まさに生と死の訓練。
そんな中でも、毎年最も脱落者を出す訓練がある。

ただ流れる映像を見るだけ。

たったそれだけの訓練。
が、この映し出される映像というのが、あまりに酷いのだ。
これが軍隊関係でなければ、訓練でなければ絶対に子供になんか見せられない。
大人だってどうなんだろうと思ってしまうもの。
まぁ、こういうのが好きってマニアックな連中なら見れるかもしれない。
あくまで“一つのお話しとして”なら。
けれどもそんな連中だってきっと、作り物だと思わなければ、実際の映像だと思ってしまったら、見られないかもしれない。
それ程の衝撃だったのだ。

母星の為、仲間の為、名誉の為。
戦おうとする理由は若干違えど、自分達は同じモノを志す“同志”である。
どんなに辛い訓練も、過酷な戦場も、共に戦ってくれる同志がいるからこそ頑張れるのだ。
そんな、青臭くも見える絆から始まる小隊の記録。
長きに渡り、数々の試練を乗り越え、絆を深め、そして・・・・互いを殺し合った。

もちろん、彼等の意志によるものではない。
敵の洗脳によるもの。
だが、それでも彼等の意識はある。
仲間を殺していると自覚しながらも止まらない。
泣き叫びながらもどうすることも出来ない。
築き上げた絆も、軍への信頼も、苦楽を共にして来た仲間も、戦士としてのプライドも。
大事にしていたもの全てを己の手で破壊し、死すらも許されない。

なぜそんな映像が残されているのか?
今にして思えば不思議な話しだ。
けれど、その時はその映像の残酷さにただ絶望し、為す術なく最も信頼している仲間に殺されるという衝撃に耐えられなかった。
一瞬にして襲い掛かる不信感と闇。
周りにいる誰もが信じられなくなる。
そんな瞬間だった。
あの映像が作り物だったのか、偶然にも撮影された本物だったのかは今でも分からないが、実際にそういうこともある。
大人になり、現場へ赴くようになってから知った事実だ。
だからこそ、訓練の一環としてその映像を流す。
何も知らぬまま、覚悟のないまま戦地へ行くよりかは幾分心構えがマシになるからだ。
現実、そのまま立ち直れずに訓練所を辞めてしまう者も後を断たない。
あの衝撃を受け入れ、立ち直れた者だけが、先に進める。
他の連中がどうやって乗り切ったのかは分からないが、自分達は一つの約束をした。

『もし、もしも俺がお前の敵になったら…お前が俺を止めてくれ』
『…うん。お前も、オレがそうなったら絶対にお前が止めろよな』
『約束だ』

もうずっと前の話しなのに、昨日のことのように鮮明に思い出す。
平和ボケの中で薄れてはいたが、忘れたことなんかなかった。
あの夕日が照らす帰り道も。
決意を込めて握った熱い手の温もりも。
止めてくれと言ったお前の真っ直ぐな瞳も。


そして今。
長い長い年月をかけて、あの日の約束が実行される。

「まさか、本当にこの時がくるなんて…思いもしなかったでありますよ…。
 ・・・ギロロ」


 了

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