アニメ補完計画

□ちびケロVSちび冬樹
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「それにしても…やっぱり可愛いわねぇ」

子供になって“ペコポン侵略”という名のお遊びをしていたケロロ達は、はしゃぎ疲れて現在ソファーの上で眠っている。
それを向かい側のソファーに座って優しく見守る夏美とモア。
クルルとタママの姿は見えない。
どうやら、子供達にめちゃくちゃにされた基地とロボの修理をしに行っている様だ。

「はい〜、すっごく可愛いです…おじ様」

モアは、自然と緩んでしまう頬を両手で押さえながら、相槌を打つ。
語尾にはハートマークがいくつも付いていそうだ。
うっとりとしたその瞳には隣で寝ている冬樹すら映らない程、ケロロだけを見つめている。
モアの言葉に、夏美は呆れた顔でケロロと冬樹を見た。

「まぁ、確かにああしてると可愛いとは思うけど…」

そこまで?と言いそうになり、夏美は言葉を止めた。
モアが本気でケロロを好きなことを夏美は分かっているからだ。
あんなののどこが良いのだろうと思うことは頻繁にあるが、モアにとっては一番なのだから仕方がない。

「あれ?じゃぁ夏美さんは誰のことを可愛いって言ってたんですか?」
「え!?あっ、え、えっと…も、もちろんみんなのことよ?」

夏美はビクリと体を震わせ、慌てて答える。
顔を赤らめ、両手を振るその仕草に、モアは夏美が嘘を言っていると直感した。
だって、チラチラと目線をソファーの一番端に向けているから。

「そぉなんですか?
 あ、でも!小さなギロロさんもとっても可愛いですよね?」
「あ、そ、そうね」
「いつものキリッとしている戦士な感じもカッコイイですけど、ちょっと生意気な感じはおじ様とはまた違って可愛いです!
 てゆーかぁ天真爛漫?」

夏美は自分でも気付かない内に笑顔をどんどん引き攣らせていく。
モアがケロロ以外を絶賛することがあまりないからだ。
まれに褒めることはあっても、ここまで好意的な言い方をしたりはしない。

「あ、あの…モア…ちゃん?」
「はい?何ですか?」
「え、えっと…」

もしかして、モアはギロロが好きなのではとも思ったが、先程のケロロへの反応からそれはないだろう。
なら、何故モアはあんなことを言ったのか?
ギロロのことも気になっているという可能性もあるが…。
夏美の頭はそんなことをグルグルと考えていた。
当のモアはと言えば、純粋に夏美が見ていたであろう人物の話を出しやすくする為に言ったにすぎない。
ニコニコとした笑顔で夏美からの言葉を待つ。

「えっと…ね。
 な、何でギロロ…なの?」

躊躇いながらも、意を決してモアに尋ねる。
手は汗に滲み、自然と力を込めていることに夏美は気付いていない。

「え?夏美さんが可愛いって言ってたの、ギロロさんじゃなかったんですか?」
「…え?」
「だって夏美さん、ずっとギロロさんを見てるじゃないですか?
 てゆーかぁ興味津津?」
「そ、そんなことっ………」

ない!と否定しようとしたが、言葉が続かなかった。
モアの言葉が図星だということを一番良く分かっているからだ。
モアはクスリと笑う。

「ねぇ、夏美さん。
 自分の気持ちに素直になるのって、凄く恥ずかしいことですけど、悪いことじゃないと思うんです。
 私も…直接気持ちを伝えたりはまだ出来ないけど…、でも、自分のこの気持ちに嘘を付いたりはしたくない。
 そうやって自分の気持ちを誤魔化していたら、きっと後悔しちゃうと思うんですよ」

モアがとてもキレイな笑顔で微笑むので、夏美は目を離せなかった。
正直、夏美にはモアが羨ましい。
いつも純粋な気持ちで、誰に対しても素直。
それでいて、好きな人をどこまでも想える強い心と意思を持っている。
誰がどう見てもモアはケロロが好きで、ケロロ本人もきっと分かっている筈なのに、それに応えようとする姿勢は見せない。
直接伝えている訳ではないから、慕ってくれていることは分かっていても、恋愛に結び付けていないのかもしれないけど。
それでもモアは絶対にメゲない。
ショックを受けていることも当然あるだろう。
でも、決してそれをみんなの前では見せないし、引きずらない。
変わらずに想い続けることが出来る。

「モアちゃんって、凄いわよね。
 …私には、真似出来ない…」

夏美は小さな声で呟く。
ずっと好きな人がいる。
その人といれば落ち着かない程ドキドキするし、見掛けただけでもときめいてしまう。
なのに、今目の前で安らかな寝息を立てている赤い宇宙人も気になって仕方ない。
一緒にいると安心出来るし、暖かい気持ちになる。
けど、ふとした時にときめくことはあっても、あの人といる時みたいにドキドキすることはない。
その差で“恋”か“恋以外”かという境界線を引いている。
自分はあの人だけが好きなんだと、意識しない様に自分へ言い聞かせて。

「どうして私が凄いって思うんですか?」
「だって、モアちゃんはいつでも素直で…本当に好きな人だけを見てるもの」
「…私には、それしかないんですよ」

ふいに悲しげな瞳で微笑むモアに、夏美は驚いた。

 
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