企画モノ

□いつも考えて
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いつもと変わらない、平穏だった日向家の午後。
その平穏は、緑色の男の叫び声によって破られた。

「ゲ〜ロ〜!!
 大変大変!!大変であります!!!!
 ギロロ伍長ー!!!!」

血相変えて勢い良くリビングの扉を開け放ち、一直線に庭へと続く窓をも開け放つ。
その勢いは、顔から庭に着地してしまう程だ。

「ゲロッ!!」
「大丈夫か?ケロロ」

住居であるテントの横で、日課の銃器磨きをしていたギロロが、横目に見ながら声を掛ける。
言葉こそ心配を表していたが、表情は完全に呆れていた。
当のケロロは、思いっきり顔面を打ち付けてしまった為、大粒の涙を流してゴロゴロと転がっている。

「いっっってぇ〜〜!!!」

ギロロは溜息を吐くと、持っていた銃を横に置き、ケロロの傍まで歩み寄る。
痛みでのたうち回っているケロロを気遣う様に、そっと手を差し伸べた。

「思い切り突っ込んだからな…起き上がれるか?」
「うぅ…だ、大丈夫であります〜…」
「見せてみろ」

ケロロはギロロに支えられ、打ち付けて赤くなってしまった部分を撫でながら起き上った。
見た所少し腫れているだけで、大きな怪我などはなさそうだ。
ギロロはホッと息を吐く。

「貴様も軍人なんだから、受け身くらい取れる様にならんか。まつたく…」
「だってぇ…急いでたんだもん…」
「急を要する事ならば通信を使えば良かろう?
 第一、そんなに急いで何の用だったんだ?」
「そうでありますよ、ギロロ!大変なんであります!!」

用件を思い出し、慌てふためくケロロ。
だが、ケロロの“大変”は大概が“どうでもいいこと”の方が多い。
それが分かっていても、ケロロの“大変話”をいつも最後まで聞いてしまう辺り、ギロロは人が良くて友人思いなのだろう。

「一体どうしたというんだ?」
「ク、クルルが…クルルが拐われたんであります!」
「そうか、クルルが…な、なにぃーーー!!!」

二人は急いでクルルズラボへと向かった。
走りながら、ケロロは先程の出来事をギロロに説明する。

「クルルに新しいメカの製造を頼みに行ったんであります。
 そしたら、見たことないロボットにクルルが捕まってて、そのままどこかの空間に逃げてっちゃったんでありますよー!」
「何故その場で緊急招集を掛けなかったんだ!?」
「何でか基地のシステムが全ダウンしてて、今モア殿が起動させてるんだけど…。
 取り敢えず、超空間ゲートが生きててくれて助かったであります」
「非常事態でも最低限困らん様、生活面は別システムを使用していると言っていたからな。
 恐らくシステムダウンさせたのは敵だろう。時間稼ぎか或いは…」
「にしても何でクルルが…」

言っていてケロロにもギロロにも思い当たる節は大有りだった。
何故ならクルルはケロロ小隊の作戦通信参謀。
敵がケロロ小隊そのものを狙っているのなら、まず最初に情報を得る事も含め、参謀を潰しておく必要があるだろう。
仮に小隊そのものが狙いではないとするのなら、あの陰湿なクルルの事だ。
どこかで恨まれていても納得がいく。
どちらにせよ、クルルがいなくなってしまっては、確実にケロロ小隊の戦力は半減…いや、場合によってはそれ以下になってしまうかもしれない。

「モア殿ーー!!」
「おじ様!システム全起動完了です!
 タママさんとドロロさんにも招集連絡出来ました!」
「さっすがモア殿であります!」
「取り敢えず、敵の手掛かりになる様な物は何かないのか?」

言葉より先に、ギロロはラボの中を見回している。
敵がどんな手段を使ってクルルを拘束したのかは分からないが、何かしらの形跡が残っていればと考えたのだ。
だが、ラボの中は特に争った痕跡もなく、いつも通りに思える。

「見た限りでは何の形跡もないな」
「その様でござるな」
「ドロロ!」
「待ってたでありますよ〜」
「軍曹さーん!お待たせですぅ〜」
「タママ!
 よし!これで全員揃ったでありますな!」

それを合図に、軍人ならではの素早い動きで三人はケロロの前へと整列した。
ケロロが隊員の顔を見渡し、軽い前置きをする。
そして、改まった口調で先程ギロロにした説明よりも幾分詳しい説明を始めた。

「我輩…夢の中でめっちゃ良い作戦を思い付いちゃったんでありますよ。
 それを元に、クルルに新兵器を作ってもらおうとココに来たら…」

ケロロの話によると、ケロロがラボを訪れた時、既にモニターの光は消え去り、クルルも拘束された状態だったらしい。
中央には古いブリキの玩具に似た、ゴツゴツとした鉄板のロボット。
作った奴に拘りが何もないのか、これといった特徴も、塗装や装備も見られなかったとの事だ。
それがケロロには気に入らなかったらしく、熱く語り出しそうになるのをギロロは止め、先を促した。
隊員達から、こんな時に…と言わんばかりの呆れた視線を送られ、ケロロは苦笑して誤魔化すと、説明を続ける。
背丈は地求人スーツ着用時のケロロ達と変わらない程度。
つまり、地球人の成人男性位という事だ。
頭の上にアンテナらしきものがあった為、恐らく遠隔操縦だと言う。

「我輩、相手に向かって叫んだんでありますが、全く聞こえてないみたいに、振り向きもせず…そのまま出現した空間に入ってったんであります。
 我輩が到着して、相手が姿を消すまではほんの数十秒。
 あえて無視したとも考えられるんでありますが…、普通、敵が近付いたら振り返るなりして状況把握や警戒心を示すっしょ?」

ケロロの言う事は最もだと誰もが思った。
確実に逃げ切れると確信していたとしても、攻撃を仕掛けてくるかもしれない相手を確認もせずに、背を向けたままというのは少々おかしな話しだ。
という事は考えられる可能性として、ロボットは無人であり、細かいことはプログラムされていない。
そして、例え破壊されたとしても敵にとって何らダメージはないという事。

「なるほどな。
 だとしたらシステムを落としたのは、その空間エネルギーの出所を特定されない為。という事か」
「でありましょうな。
 相手がいくら素性を隠そうと工作しても、エネルギー源を突き止めれば簡単にバレてしまうでありますし」

腕を組み、目を閉じて頷きながら賛同する。
その表情はいつになく真剣で、普段のケロロとは結び付かない位隊長らしかった。
そんなケロロに、タママが熱い眼差しを向けているのだが、当のケロロは気付かない。
ケロロは一息間を置くと、再度口を開く。

「敵がどうやってクルルに近付き、捕らえたのかは不明でありますが…武力行使ではないと思うであります」

相手の脇に抱えられていたクルルは、見た所怪我などなく、体の自由も奪われていなかったと言う。
だが、手足をダラリと垂らしていた事から、気絶している事は一目で分かったらしい。
クルルは非戦闘員とはいえ、軍人だ。
そう簡単に捕らわれるとは思えない。
第一・・・

「敵はどうやってここに侵入したですぅ?」

 
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