企画モノ

□うまく言葉に出来ないから
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「待って!先輩!!待って!!」

俺の呼び掛けに振り向きもしない赤い背中。
こっちが必死になって走ってるってのに、一向に距離は縮まらない。
寧ろどんどん離されてるんじゃないか?

「おいっ!待てってば!!ギロロ先輩ッ!!」

徐々に焦りよりも苛立ちが増していく。
どうしてこうも追いつくコトができねーんだよ!
相手はただ普通に歩いてるだけだぜ!?
物理的に考えてもありえねぇ…。
ってコトは・・・

「夢か、これは」

気付いた瞬間にホッとした。
現実に先輩が俺から離れてるワケじゃないって分かったから。
なのに、走る足を止めるコトが出来ない。

「夢は深層心理。
 主に理想・妄想・願望が現れる。
 または心像・記憶の整理・現状に感じる不安や恐れ、喜びなど強い感情の現れ」

追い掛けても追いつけない。
呼んでみても振り向かない。
俺の存在に気付きもしない。
まさに“現状”そのものだな。

「でなけりゃぁ・・・予知」

先輩はどこに向かって歩いてる?
周囲の背景にこれといった特徴はない。
ただ無機質な白い廊下が続いてるだけ。
この廊下はどこのもんだ?

「地下基地にしては狭い。
 本部にしては照明が明るい。
 先輩ん家にこんな廊下はねぇし…何よりコイツは俺の見てる夢のハズ。
 俺の知ってる場所でこんな廊下・・・」

覚えがないのは単に忘れてるワケじゃなさそうだ。
ココは本当に俺が初めて見る場所。
この場合、俺が勝手に作り出してるって考えるのが妥当だ。
んじゃ、先輩がどこへ向かってるかなんて決まってる。
俺が、最も行ってほしくないと願っている光の先。
そこしか考えられない。

「てコトはなんだぁ?
 ココは神聖な通路、バージンロードってコトかい?」

自然にクククッと笑みが零れる。
面白くもなんともねぇのに。

「予知だったらシャレんなんねぇーぜ?」

変わらないペースで歩き続ける先輩の前方に、光が見えた。
その光がどんなもので、抜けた先に何が待ち受けているのか。
考えるまでもない。

「チッ!たかが夢だってーのに…なんでこんなに焦ってんだ!?」

近付けば近付く程、光は大きさを増し、強さを増して行く。
それは同時に、前を歩く先輩の姿をもぼやかしていって。
このままじゃ…光に入っていく前に先輩が分からなくなっちまう!!

「センパイッ!!頼むから…頼むから待ってくれーッ!!」

全身全霊で叫ぶ。
それと同時に先輩の姿が光で見えなくなった。
俺はようやく走っていた足を止め、肩でぜぇぜぇと息をする。
ある程度整うと、そのまま脱力してへたり込む。
体力の限界をとうに上回っていたらしい。
夢だというのに、この疲労感は妙にリアルだ。
さすがは俺様、こんなトコロにまで天才を発揮しちまってんのか?

「せ…んぱ、い…」

くだらないコトをいくら考えても、紛らわせるコトが出来ない事実。
やっぱり、俺の声は届かなかった。
先輩はあの光の中に消えてしまった。
俺の…、俺が介入出来ない世界へと…。
それでも目の覚めない自分自身を呪う。

「はぁ・・・」
「大丈夫か?クルル」

 
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