企画モノ

□変わりゆく
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「あ、この曲…」

年に一度の里帰り。
長い間主の戻らない部屋は、母が掃除をしてくれているのだろうが…。
帰る度、子供の様にひっくり返している為、散らかり放題のまま。
たまにくらいは片付けようと、そこら中に散らばるゲームやオモチャをひたすら指定の場所に仕舞っていたのは最初の十分間。
ふと思い出してしまった物を探し始めたら、やっぱりひっくり返してしまって。
もう何十年も前になってしまう“思い出の封印”と書かれた箱をも見付けてしまった。
押し入れの奥深くに隠す様に仕舞われたソレを発見してしまったのは、先に述べた原因でバリケードが薄くなっていた為であり、本当に偶然だったのだけれど。
開けまいと思っていたソレを開けてしまったのは、自分の意思の弱さだ。

“思い出”と記されていたソレの中身は、訓練所時代の品々。
一つ一つ、当時を振り返りながら確認していくと、凄く懐かしい曲を聴いた。
昔からとても大好きなアーティストで、当時はその曲ばかりを聴いていた気がする。
まぁ、今も当然の様に大好きではあるのだが。
変わってしまった日常のお陰で、音楽とは疎遠になってしまった結果だ。
それに…、思い出したくないことまで思い出してしまう。

気が付いたら、身体が自然と動いていた。
あの曲が入ったディスクを片手に。
昔、仲間達と一緒に過ごした、あの…思い出の場所へ。

たとえご無沙汰といえど、何年も通っていた道はボーッとしていても迷うことがない。
暫く振りに通る町並みを見回す。
何もかも当時のままで懐かしいが、どことなく雰囲気が変わってしまったことに気付いた。
それでも、変わらず構えている店を見付けては寄り道し、中々目的地へ行こうとしない自分を往生際が悪いと思いつつ、帰ろうともしなくて呆れてる。
そうやってダラダラとしていたせいで、目指していた場所に辿り着いた頃には辺りが暗くなり始めてしまっていた。
傾いた陽が背中から射し、短い草が生い茂る地面に長細い自分の影が出来る。

「・・・変わんない」

何もない、だだっ広いだけの敷地。
時期によってはこの草が異常な程の成長を見せ、あっという間に自分の背丈を覆い隠すのだが、今は出始め。
短いお陰で、遠くの方まで良く見える。
夕陽に赤く染まった光景は、いつか見たものと同じ。
ただ違うのは、あの頃一緒にコレを見た仲間達がいないこと。

「なんで・・・」

何でココに来たんだろう?
ココに来たからといって、何があるわけではない。
寧ろ、自分にとってはマイナスでしかないわけで。
ただ、今まで幾度となく来ようと思っては断念していた。
そんな地に辿り着けたのは成長か?
それとも非道なまでの変化か?
そういえば、最後の日、みんなで約束をした気がする。


――――……

『たとえ何年経ってもケロロは変わらない気がする!』
『言えてる(笑)』
『そんなことねぇーって!』
『じゃぁさ、約束!またここにみんなで集まろうぜ!』
『そんときの成長ぶりが楽しみだぜ(笑)』
『絶対お前らを見返してやる!』
『言ったなー?でも本音としては、ケロロにはそのまんまでいてほしいや』
『大丈夫だって、ケロロがそんな簡単に変われるはずないから』
『あ、ギロロまで!!みてろよー!!』

……――――


まるで今目の前に存在しているかの様に広がる光景。
薄らぎつつあった思い出が鮮明に蘇った証拠。
懐かしい。
だが、それだけだ。

「我輩は…、どうだったんでありましょうな?」

小さな笑みと共にポツリと呟いた言葉は、昔の自分達へ向けたものなのか、この場にいない彼らに向けたものなのか。
自分でも分からなかった。


 
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