企画モノ

□ハロウィンパーティー
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何をするにも最適な秋晴れ。
もう直ぐ冬だというにも関わらず、日差しが強く、気温も高い。
そんな蛙さえも浮かれてしまう様な陽気の中、カエル型宇宙人は本当に浮かれていた。

「ギ〜ロ〜ロ〜くぅ〜ん♪」
「朝っぱらから何の用だ?」

ケロロの陽気過ぎる声に何となく嫌な予感を感じながらも、ギロロはテントから顔を出した。
と、同時に掛かる合図。

「ゲロリ、やりたまえ」
「りょ〜かい!」

そんな声と共に、ケロロの後ろでスタンバイしていたクルルが、躊躇う事なく構えた銃の引き金を引いた。
当然、不意討ちを突かれたギロロに避ける暇などない。

「うわぁっ!?」

驚きの声を発すると共に身を固くして構えるギロロ。
だが、幾度となく実験台にされてきたギロロにとって、それが肉体的ダメージを受けるものではないと直ぐに分かった。
嫌って程に覚えのある光が瞑った瞼の奥にまで届く。
この光は間違いない、対象をその設定に変化させるクルルお手製の変身銃だ。
思った通り、光から解放されたギロロは、何とも可愛らしい姿に変身を遂げていた。

「ゲーロゲロゲロゲロ。
 よくやったであります、クルル曹長!
 じゃ出発ぅ〜☆」
「待てっ!!
 貴様…どういうつもりなのか説明してもらおうか?」

意気揚々と歩み出そうとするケロロを、可愛らしい衣装には似つかわしくない程の超凶悪顔で睨み付けながら引き止めるギロロ。
顔が赤らいで見えるのは怒りの為か、はたまた恥ずかしさの為か。
どちらにしろ、ケロロには怒りを強調している様にしか見えない。

「ま、まぁまぁ。
 落ち着くでありますよ、ギロロ伍長」

わざとらしく階級を付けて呼ぶのは、暗にこれが侵略作戦の一環である事を示す為だ。
その意図が通じたのか、ギロロの表情がほんの少しだけ和らぐ。
ケロロはホッと息を吐くと、ギロロに問い掛けた。

「今日が何の日だったか、覚えてるでありますか?」
「・・・何か、特別な日だったか?」

ギロロは自分がこんな理不尽な格好にされた正当な理由があるのかと考えた。
が、普段からイベント事や流行に敏感なケロロとは違い、そういった事に興味を示さないギロロには、一体何があるのか検討もつかない。
もしも、前々からこの日に何か作戦をやろうと決めていたのなら、自分が覚えていない訳がないだろうし。
事前に確認の一つ位する筈だろう。
いくらケロロといえど。
だが、そこでギロロはふと思い出した。
昨日予定されていた侵略会議は、時間が早まったとかで、ギロロが日課のパトロールに出ている間に終わってしまったのだ。
大した事は決まらなかったと適当に流されてしまい、ギロロは会議の内容すら知らないまま。
もしかしたらそこで何か緊急に作戦が決定したのかもしれない。
それを確認すべく、ギロロが口を開こうとした時。
待ちきれなくなったケロロが答えを先に言い放った。

「今日はハロウィンであります!」
「はろうぃん?」
「去年の今頃もやっただろぉ〜?
 地求人スーツで仮装してさぁ」

クルルの捕捉で、ギロロの脳裏に思い浮かんだ、昨年の屈辱的な出来事の数々。
眉間にシワを寄せ、あからさまに嫌そうな顔をしたギロロを見て、クルルはくつくつと笑う。

「つーわけで!今年もやるんでありますよ☆」

良く見ると、ケロロとクルルも何やら奇妙な格好をしていた。
どこを変えたのか分かりにくい程地味な仮装、というわけではないのに全然気付かなかった自分に少し驚く。
味方からの突然の奇襲と己の格好に感じた以上の動揺をしてしまっていたのか、この二人は常に突拍子も無いことをしていると端から眼中になかったのか…。
果てしなく後者な気がして肩をガックリ落としながら小さな溜息を吐き出すと、ギロロは再度ケロロに目を向けた。
鮮やかな緑色や腹の白い部分、軍帽の黄色までもそのままに、その軍帽からふわふわとした三角の耳を頭から生やし、同じ質の短い毛で全身が被われている。
フサフサのしっぽや鋭い爪と牙からして、どうやら犬系の様だ。

「我輩は!普段は可愛らしい〜わんちゃんでぇ〜。
 満月を見たら一変☆カッコヨク変身する狼男であります!!」

大袈裟にアクションを付けながら説明するケロロ。
狼を『わんちゃん』と言ってしまうのはちょっと違う様な気もするが、確かにその姿はとても可愛らしく見える。
だがギロロは、実際にこんな色合いの犬がいたらちょっと嫌だななどと思っていた。

「んで、俺様がバンパイアだぜぇ〜」

クルルは白いシャツの上に赤いベスト、黒のスラックスとブーツにマントを纏ってる。
首元にはコウモリ型のアクセサリーまで付いており、あの不真面目なクルルにしては意外な程キチンと着ていた。
こちらもそれなりに似合うのだが・・・衣装云々というよりも、吸血鬼とクルルの設定が合い過ぎていて、ギロロは少し身震いしてしまった。

「それで?
 何故俺だけこんなヒラヒラとした服なんだ?」

ギロロは不機嫌さ全開の顔で二人を睨み付けた。
彼が今着ている衣装は、黒地に白いレースで縁取りされたワンピースとトンガリ帽子。
短めの裾は二段になっており、ふんわりとしている。
それだけでも不愉快だというのに、胸元部分の編み上げ状に付いているリボンと、その周りを可愛らしく飾るレースが鬱陶しくて仕方ない。
しかも、起動歩兵である彼にとって、指先近くまで被われてしまうベルスリーブは、邪魔以外の何物でもなかった。

「魔女だからでしょ?」

ケロリと言い放つケロロ。
“魔女だから”当然そんな一言で納得出来る筈がないギロロは、再度怒りを点火した。

「そういう事を聞いてるんじゃないっ!
 何故俺だけ女ものなのだっっ!!」
「そりゃぁ、その衣装が先輩に一番似合う格好だからだぜぇ〜?」
「どういう事だっ!?」
「俺様開発、君理想本格変身銃(カガミヨカガミヨカガミサンジュウ)は、その人物の一番イメージに合った格好に変身させてくれる超スグレモノ!
 コレ一つであなたも今日から本格仕様のコスプレをお楽しみいただけます☆」
「つまり、これが一番俺に合うと?」
「さっきっからそう言ってんじゃないっすかぁ〜?」
「・・・んな訳がっ!!」
「ギロロ?」

背後から突然声が掛かり、ギロロは咄嗟に振り向いた。
そこには今最も会いたくない人物の姿。

「何その格好?」
「あ、いや…これは、その…」

先程までの怒りはどこへやら。
顔を俯け縮こまるギロロ。
全力でこの場から走り去りたい。
そう思った時。

「すっごいカワイイじゃなぁい!!
 アンタ意外とゴスロリ似合うわねぇ〜」

今日がハロウィンである事やケロロの性格を理解している夏美には、大体の経緯が予想出来た。
故に、何の疑問も抱かず素直に褒める。
意外な一言に、ギロロが恐る恐る顔を上げるのと、夏美がしゃがみこみ、ギロロと視線を合わせたのはほぼ同時。
ギロロは声も出せない程に驚き、口をパクつかせている。
きっと今ガルルが側にいたのなら、未熟者だと言われてしまうだろう。

「いーなー、私もこんな服着てみたぁい」

本当にそう思っているのか、ただギロロを茶化したいのか分からない夏美の無邪気な声。
未だに真っ赤になって身動きの取れないギロロだが、頭の中ではしっかりと、夏美の魔女姿を思い描いている。
俺何かよりも夏美の方がずっと似合うのに…、そんな事をぼんやりと考えていると、クルルの嫌な笑いが聞こえて来た。

「ク〜クックック〜、いいぜぇ〜?
 どっちみち全員そうする予定だしな!」

言い終わるよりも先に、クルルが再度銃を構えて引き金を引いた。
二人が反応するよりも早く、夏美は光に包まれ、その姿はあっという間に変化する。
白と水色のエプロンドレスにボーダーの靴下。
頭にはリボン形のカチューシャまで付いている。

「きゃぁぁぁ〜!!
 カワイイ!カワイイ〜!!
 これってアリスよねぇ〜!?
 一度こういうの着てみたかったのよぉ〜♪」

夏美はスカートを広げたり、クルリと一回転したりしている。
普段の様に露出のあるタイプの服装ではないからか、クルルの発明品で変身させられたというのに、とても嬉しそうだ。
何よりその姿が非常に似合っており、いつもとはまた違った雰囲気の夏美からギロロは目が離せない。

「どう?ギロロ?」
「え?あ、あぁ・・・い、いいんじゃないか?」
「ふふ、そう?ありがと。
 ギロロも本当に似合ってるわよ♪
 何だかアリスのお人形さんみたいじゃない?サイズ的にもさ」

そういってギロロを抱き上げる夏美。
慌てたギロロがじたばたと足掻くものの、夏美の満面の笑みを見た瞬間、顔を真っ赤にして俯く事しか出来なかった。
そして、変身させられた時とは違い、今では今日一日位ならこの格好も構わないかなどと思っている。
ケロロはそんな二人を見て、ギロロの怒りが消えてくれた事にニヤリと黒い笑みを浮かべた。

「それじゃぁ次は冬樹殿であります!
 ギロロ、今日は西澤家でハロウィンパーティーでありますから、逃げないでちゃんと来るでありますよ?」
「大丈夫よ。ギロロは私が責任持って連れてってあげるから」
「なっ!?連れて行ってなどもらわずとも逃げたりなどせん!!」
「あら、私と一緒に行くのが嫌なの?」
「そっ、そんな事!!
 ・・・い、言っとらん!」

二人の会話にやれやれと溜息を吐きながら、ケロロはクルルを引き連れて冬樹の元へと向かった。
複雑そうな顔をするクルルに気付く事なく。

 
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