short story

□君と見た明日
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また明日って言って、君は笑っていたけど。
君の思い描いていた明日に、はたして俺はいるんだろうか。
隣にいて笑っているだろうか。


生きているんだろうか。


普段の会話のなかでこんなこと言ったら、笑い話で済まされるんだろう(まあ俺が口にすれば話は変わると思うけど…)。

だから俺は今真剣に悩んでいる。



帰り道、前を歩いていたブン太とジャッカルと赤也がいつも通りにゲームの話をして、そのすぐ後ろで仁王が柳生をからかい、その三歩くらい後にいた俺と真田と柳は明日の部活の話をした。


「あ、俺達ゲーセン寄ってくんで、ここで失礼させてもらうっス」
「じゃあ、また明日会おうぜぃ」
「じゃあな」

「ああ、気を付けてね」


手を軽く挙げてさよならのあいさつをかわす。
こんなに簡単に明日を約束する日が来るなんて思ってなかった。
三人が見えなくなるまで振っていた手をぎゅっと握って、俺はその手をただ見つめているだけだった。


「幸村、どうかしたのか?」
「…何でもないよ」


何でもなくないから聞いてきたのにその返答はおかしかったかな。
そもそも言ったところで真田は俺の気持ちがわかるのだろうか。


「本当に、何でもないから」


まだ何か言いたそうにして俺を見ている真田をゆっくりとした足取りで追い越した。

顔を上げて空を見渡すと、沈みかかった太陽があたり一面をオレンジ色に染めている最中。
この憎らしいほど綺麗な太陽が早く沈んでしまえば、俺達は明日に渡れるのに。


「早く、明日になればいいね」


そう口にすると後ろから返された疑問を聞いていながらも、知らないうちに遠く離れてしまった他の部員達の声でかき消されたふりをして、俺は駆け出した。


もういっそ、このまま明日に走っていけたら、俺は彼の隣にいれるんじゃないかって思ったんだ。





君と見た明日




END




11.10.30
 

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