long story

□consider
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財前を見送ってから、暫くはその場から動けずにいた。

具合が悪いと言った後輩を帰らせたのは正しい判断やと思うし、それについて後悔をしているわけやない。
せやけど何か、何かが俺の心に引っ掛かっとるように錯覚した。

罪悪感かもしれんし、不信感かもしれん。
全く異なる二つの感情が区別できなくなる程に、俺は戸惑っていた。

自分と葛藤しとった俺の視界の端にうつった見覚えのあるユニフォーム。
近付いてきた人物に焦点を合わせる。

そこにおったのはユウジやった。

「謙也くんはこんなとこでさぼっとったんかー?」

「さぼってへんわ、アホ」

わざとらしい口調のせいでいつもムカつくユウジが更にムカついた。
ああ、わかったで。
俺のことバカにしに来たんやろ。

ユウジの言うてることが道理にかなっているだけに強く文句を言うことはできひん。
痛いところをつかれた。

「そないなこと白石に言うてみ、しばかれるで?」

「うっさいわ…って、あ!」

そうや、そうやった。
すっかり忘れとった。

白石に財前のこと、言わんとアカンかった。
このままじゃ、無断欠席にしてまうわ。

「し、白石はどこ居んねん」

「確かさっき、今日は用事があるから早よ帰らせてもらうわって言うて帰ってしもたような…」

「何やて!待ちや、白石ぃ!」

ユウジが後ろから何か騒いどったけど、既にスピードスターの領域に入った俺には風を切る音しか判断できひんかった。


今白石は何処におる?
あ、何分に帰ったかユウジに聞いとくべきやったか。
いくらスピードスター言うても場所と距離がわからんと意味ないやん。

せめて連絡が取れれば。
…って。

「そうや、携帯で連絡とればええやんか」

最初から電話すればいいっちゅー話や!
さっそく白石の電話番号を探して、通話ボタンをおした。


『…どないしたん、謙也』

ワンコール過ぎた時、がちゃっという音と共に聞こえてきた白石の声は、どことなく不機嫌さがあった。

少し間を空けただけで凄い変わりようやったから、俺はただ吃驚して何て返そうかって考えるので手一杯やった。

「え、あ…いや、その」

「…なんやお前、用があるんと掛けたんやろ?言うこと無いんなら切るで?」

自分がわけわからんくなって、何も言わんよりは、と意味のない接続後やら何やらを途切れ途切れ言ってはみたが、それが逆効果だったらしい。


白石の間がない話し方に一瞬でも圧倒されてしもうた俺がワンテンポ遅れて

「ちょお、白石!?」

と持っていた手で携帯を握りしめながら言うても、聞こえてきたのは電話を切った後の虚しい電子音やった。



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