罪の始まり

友人が寝て、しばらくの間にタバコ何本吸ったかな…

何種類吸ったかね。

もういやだ。友人の寝る空間でアタシは自分への苛立ちと謎の自己嫌悪に包まれてた。逃げたい。

またタバコに手が伸びたその時、物音がした。

友人の寝返りだった。

何だ…

アタシは友人の寝返りよりも、あんな些細な物音に汗だくになってビクつく自分に感嘆した。

寝返りうった友人に毛布をかけ直してアタシはタバコに手を伸ばした。

その時、あたしの手首が猛烈に掴まれた。

あたしは目を見開いた。

寝てるハズの友人だった。

な…なに…?

声にならない声で問う。

「お前、タバコ、吸いすぎ。」

友人は寝てたとは思えない声ではっきりした口調で言った。


「ほっといてくださいな」

アタシは再びタバコに手を伸ばした。

はずだった。

今の状況を、理解するのに時間がかかった。

タバコに伸ばしたはずの手は強く掴まれたまま

タバコの煙を吐くはずのアタシの唇は、さっきまで寝てた友人が塞いでた。

「タバコに使うよりマシな使い方っしょ」

離れた友人は笑いながら真面目な顔で言った。


「手…痛い。離して」

声にならない声。声になってるつもりでいうアタシの手を掴んだまま、友人は自分の隣にアタシを引き寄せて言った。


「タバコ吸うよりマシな使い方っしょ」


こいつ…オトコだ。
アタシ…オンナだわ。

そんな今更なコトを今更想いながら、夜が明けてしまった。

薄暗い夜明け、あたしは割れそうに痛い頭を押さえてタバコに手を伸ばした。静かな部屋に響き渡った声。

「お前な、俺が言ったコト忘れた?」

寝起きの友人…じゃなくて、オトコはそう言った。

「忘れてないよ。忘れたいけど。」

アタシは呟いた。

「お前、変わんないぞ。ずっと。タバコも止められないわ」

「いいよ。やめる気ないから」

アタシはちょっとムキになった。

「ふ〜ん。お前は昔からよく解らんね。オモロい奴。急に押しかけて悪かったね。おかげでくつろげたわ。お前は本当に楽だわ。気使わんし。じゃ俺帰って仕事するわ」

そう言ってオトコは家を出た。

オトコが出て更に虚しく静かになった部屋でアタシは悟った。これから繰り返す罪と罰を。

それを嘆く手にはタバコがあった。

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