未来航海

□Episode4~アラバスタ王国編
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グランドライン、とある冬島の《ドラム王国》
と呼ばれて"いた"《名も無き島》では、
小さな海賊が新しい仲間を連れ、
島を出航する頃に、大きな桜が咲いた。
冬に桜など咲くはずがない。普通であれば
皆がそう口を揃えて言うだろう。
だが…確かに、そこには咲いたのだ。


『…綺麗』


船尾からまだ見える大きな桜は鮮やかなピンク色の雪を降らせる。
すでに他界したDr.ヒルルクというヤブ医者が起こした奇跡。
6年越しに、彼の夢は叶ったのだ。


『………』


チョッパーの為に宴だァ!と騒ぐ甲板では、
いつもと変わらない皆の姿。
私も一応片手にお酒は持ってるのだが…。


『酒豪家の剣士め…病み上がりにお酒飲ますか普通……』


ああ、違う違う。ここの船は常識が通じないんだっけ。
男共の脳内はどうなっているのか本当に。
ナミがぶっ倒れたのもケスチアだけじゃなくて、
精神的疲労もあったんじゃないか、
と思う程"普通"じゃないこの船。


『…まァ…楽しいからいっか』


クイッと1杯お酒を飲み、片手を空に上げる。


『……仲間の為に宴で飲むお酒に、満月の夜空の下、
奇跡の桜を見ながら、ピンク色の雪に打たれる…。
ロマンチストのあんたには最高のシチュエーションなんじゃない?リン』


「あァ!こんな日はねぇ!!今日は飲むぞ!シエル!!」


『フッ)…あんたはいつも飲んでるでしょうが…(カタッ)…………』

ゾロ「………何言ってんだオメェ」








『乙女の独り言を聞くとはいい度胸ねぇ』

ゾロ「仕方ねぇだろ!!オメェが居ねぇとルフィがうるせェんだよ!!」


頭のコブを抑えながらギャーギャーと噛み付いてくる
ゾロを尻目に甲板へ戻ると
鼻に割り箸をぶっ差して踊るルフィ、ウソップ、チョッパー…。


『随分楽しそうね』

ナミ「あ、シエルどこ行ってたのよ」

『船尾。感傷に浸ってた』

ナミ「へぇ…」

『……何…』


ジト目で見るナミに思わずビクリと肩を揺らす。

いーえ、何も。とクスクスと笑うナミ。何なんだ一体。
時たま考えてる事がわからない頭脳明晰な
ウチの航海士様も1杯お酒を飲み、満面の笑みだった。


『……本当に、いい船出』


夜遅くまで続いた宴は、ルフィが丸々としたお腹で
腹踊りをしゾロにぶつかり、ゾロは自分が飲んでいたお酒を
サンジに頭から掛けてしまい、サンジがキレて蹴りを入れようとするも、
たまたまご飯を取ろうとしていたウソップの顔面に食い込み、
ウソップが伸びたところで幕を閉じた。

―――そして島を出航してから5日後、
夜中に食料が突然消えるという事件(もはや犯人は明白だが)により、
ルフィとウソップが釣りをしていた。


『皆の命かかってるんだよ、ルフィ』

ルフィ「俺だけじゃねェぞ食ったの!」

『そういう問題じゃないの、バカ』


ルフィの頭をチョップすると、隣でざまぁみろ!
と悪ノリのウソップも一緒にチョップしておいた。
ふと前を見ると海の上に煙が立っていた。…ん?いや、あれは…。


ビビ「何かしら…あれ…」

ルフィ「わたあめか?」

『蒸気かな。恐らくホットスポットなんだと思うよ』

ウソップ「なんだそりゃあ」

『マグマができる場所のこと。海底火山があるんだよ確か』

ビビ「本当…物知りね、シエルさん」

『はは、物知りというか…経験?』


ふふっと、笑えばウソップがシエルは
いつから海賊やってんだ?と尋ねてきた。


『えーとね、海へ出たのは……………』


と、不意に蘇ってくる記憶―――。


「うるせェガキが!黙って掃除してろ!」

「汚らしい…近づかないで頂戴!」

「クズとなんら変わらねえ"お前ら"に飯を与えて
やってるだけありがたく思え!!」

「ガキはどこへ消えた」

「確保したら………"コロセ"」



…い、!!

…おい、!!!

…おい、シエル!!


『ハッ)…っ!』

ルフィ「大丈夫かお前…顔色悪ィぞ?」

『ドキッ)…え……?あ…そう…かな………?』

ルフィ「すっげー震えてるしよォ、まだ風邪治ってなかったのか?」

『ううん………大丈夫…。それより…私が何歳で海へ出たって話だっけ?』

ウソップ「あぁ…、けど…何か嫌なことあんなら別に無理に聞かねぇぜ?
無神経だった俺が悪ィしよ」

『あーー………うん…。ウソップは、悪くないから!
……ごめんね。ちょっと中に入るよ』


と、ラウンジの扉を開ければナミとチョッパーが隙間から
蒸気を見つけ私と入れ替わりで甲板へ出ていった。


サンジ「どうかしたかい?」

『あぁ…ちょっとね………。いつもの紅茶、お願いしてもいい?』

サンジ「喜んで」


せっせと紅茶の準備をするサンジを見つめていると、
照れるなァ…と若干メロリンモードのサンジ。
コトッ…と差し出された紅茶を飲み、はぁ…と一息吐けば、
今日はどんなお話で?とコロッと入れ替わった。


『(このギャップには本当…敵わないなぁ……)』


顔が整っているサンジは俗に言う"イケメン"に部類されるだろう。
但し、"残念な方"のイケメンである。
口を開かなきゃ普通にカッコイイし、性格もメロリンモードさえ
発動しなきゃ、英国紳士とも言えるのにな。

なんて、褒めてるのか貶してるのか自分でもよくわからない
サンジの解析を終え、話をする。


『……もしね、もし…………私が……』

サンジ「……?」

『………いや、やっぱナシ』

サンジ「ちぇ…気になるなァ……」


タバコを噴かし、ははっ、と笑うサンジ。
隠し事はよくないのはわかるけど…
なんで、私こんなこと聞こうとしてたんだろう、
と今更後悔する。


サンジ「まァ…なんだ、シエルちゃんが
話したいタイミングでいいからさ」

『…なんかごめん、今度お詫びに何かする』

サンジ「だったらハグで俺のことをギュッと抱きしめ(ドスッ)ぶへえ!」

『外出るわ』


と、外に出ればナミが風と気候が安定してきたみたい。とビビに伝えていた。
もう少しで着くのか。と、ふと振り返ると
バロックワークスの船が何隻も私達と同じ方向へ進んでいる。


『すごい数ね』

ビビ「あれは恐らく"ビリオンズ"…オフィサーエージェントの部下達よ…」

ナミ「200人はかたいって訳だ…」


今の内に砲撃しておくか!?と足を震わすウソップに、先にメシだ!
と相変わらず本能的なルフィ。
そして小物になんざ構うな。と間髪入れたゾロ。

そりゃ、そうね。こっちは9人(1人というか1匹にもなるけど)しか居ないし、
無駄な争いは避けて体力は温存したいものだ。

―――と、そこで上陸前にしておかなければいけない事がある。
と珍しくゾロが立ち上がった。


『…なるほどね、これで仲間の確認をしようってわけだ』

ゾロ「あァ、今回の敵は謎が多すぎる」

サンジ「それにしてもそんなにも似ちまうのか?
その"マネマネの実"で変身しちまうと…」

ウソップ「そりゃもう"似る"なんて問題じゃねえ。"同じ"なんだ」


ウソップがサンジに力説するが、興味がねェとアッサリ切ったサンジ。


ゾロ「あんな奴が敵の中に居るとわかると、
迂闊に単独行動も取れねえからな」


トンッと左腕を叩き、ニヤリと口角を上げるゾロ。既にやる気満々か…。
もう、さすが。としか言えないな。

そうこうしてる間に島がハッキリと見えてきた。


『港に近づいてきたよ』

ビビ「西の入江に泊めましょう。船を隠さなきゃ」


船を少し西へ傾けると、ルフィがおーい!と皆を集める。


ルフィ「よし!とにかく、これから何が起こっても左腕の
これが仲間の印だ!!!」


じゃあ、上陸するぞ……メシ屋へ!!!あとアラバスタ。となんとも締まらない
そんな言葉に総ツッコミを入れ、船を入江へと隠す。


『ビビ、もう降りる…』


彼女を見れば、左腕をギュッと握り皆を見てニコリと笑った。

そうか、王女様には"海賊の仲間"なんて、本来なら必要ないものだし
…寧ろ関わっちゃいけないんだよね。


『全く………勇敢なお姫様だこと…』


そして、私達はアラバスタ王国へと足を踏み入れた。
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