未来航海

□Episode3~冬島編
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《リトル・ガーデン》を出発し、安定した波を進む今。
ラウンジでサンジとお茶をしながら
たわいのない話をしていた。

聞き上手でもあり、話し上手でもあるサンジとは
なかなか話が弾む。それに彼とは同じ歳ということもあって、
ひっそりと親近感も抱いていた。メロリンモードと
紳士モードのギャップが見られるこの時がすごく
好きになっていて、私の中では特別な時間へと
変わりつつあるのかも。


『ふふっ』

サンジ「ん?どうしたんだい?」

『いーや。なにも』


紅茶を1口飲み、また話をする。ある時は青年で、
ある時は少年でもあるサンジ。素が出ちゃう時は
少しルフィに似てるんだよね。大人っぽく見えるけど、
実は子供っぽいのかもしれない。本当に面白いギャップだ。
…なんて、本人に言えるわけもなく、うんうん、と
相槌を入れながら彼を見つめていた。


サンジ「シエルちゃん?」

『ん?あぁ…ごめんごめん。ちょっとぼーっとしてた』

サンジ「体調悪いのかい?」

『ううん、違うよ』


大丈夫、と紅茶をもう一度含んだ時だった。


ビビ「みんな!!!きて!!!大変!!!!」


ビビの声に必然的に集まるみんな。部屋へ行けばハァハァ…
と顔を真っ赤にして息を乱すナミ。
すごい熱…結構やばい状態……。とりあえず部屋に移し、
もう一度症状を見てみる。


ビビ「気候の所為かしら…グランドラインに入った船乗りが
必ずぶつかるという壁の1つが、異常気候による発病……」

『………』

ビビ「ちょっとした症状でも油断が死を招く。
この船に少しでも医学をかじってるのは…」

「「「………」」」

『…そんな一斉に私を見ないでよ…』


医学って言っても本当に基礎的なものを知っているだけだし、
鍼灸も病気を治すものでもない。あくまで症状を和らげるものだ。


ルフィ「鍼でなんとかなんねェのか?」

『そうしたいのも山々だけど…私の鍼灸は"治す"もの
じゃないから…けど、とりあえず医者を見つけるまでは
私が看るから船の進路を…「だめよ…………」!?』

ビビ「え…!?ナミさん!」

ルフィ「おーーっ!治ったーーっ!!」

ウソップ「治るか!!」


起き上がったナミはデスクの引き出しの新聞を…。
と言い、ビビが急いで新聞を広げると、記事には
"国王軍の兵士30万人が反乱軍に寝返った"…と、
書かれているようだった。

成程…そうなればアラバスタの暴動はより本格化するわけか…。
なら、尚更急がないと国が本当に取り返しのつかないことになる…。


『…狡いわね…クロコダイル…!』

ビビ「………」


先を急ぎましょう、とナミは甲板へ出ようとする。


『待ってナミ。いくらなんでも…』

ナミ「医者になんてかからなくても勝手に治るわ…」

『バカ!その熱で何言って…』

ナミ「とにかく、今は予定通り真っ直ぐアラバスタを目指しましょ」


心配してくれてありがとう。弱々しく笑うと部屋を出て行ったナミ。
彼女の強がりな性格がこうもなるとは…。いくらなんでも
あの高熱で外に出たら少しの潮風でも
身体に影響しかねないだろう。何が起こるのかわからないグランドライン。
天候のみならず、人の身体にも何かしらをもたらすこの海…。

あまり無茶をさせても、アラバスタで倒れられては元も子もない。

どうしたもんか、ととりあえず甲板に出れば
ナミから叱りを受けるゾロ。フラッとなるナミの傍に行けば
みんなを呼んで、と伝言を頼まれた。


『南へいっぱい舵を取って。あと、シートについて
左舷から風を受けてほしい』

サンジ「何事だい?波も静かでいい天気だぜ?」

『わかんない…けど、ナミが"空気が変わった"って…』


航海士の言う事だから何かがくるのだとは思うけど…
あれだけの高熱でもその判断が鈍らないのか…。
と、船の方向を変え少し進んだ矢先、後ろにサイクロンが起きていた。


『なっ…!(まさか…あれを予測して…!)』

ナミ「シエル…ごめん………私…」

『ナミっ!!!』


急いでナミを受け止め、船内へと運ぶ。
ビビにも手伝ってもらい、看るものの状態は一向に良くなる気配はない。


ビビ「ナミさん…」

『…リトル・ガーデンを出てから症状が出た…か…』

ビビ「?シエルさん…?」

『ナミ、ちょっとごめんね』


布団を捲り、首元、肩、腕、と順に見ていく。
そしてお腹を見ようと服を少し捲ると、


『………』

ビビ「どうかした?」

『…ビビ、空っぽの桶と、お湯持ってきてくれない?あと氷水も』

ビビ「ええ…」


ビビに用意をしてもらってる間に鍼の準備を済ませ、
一度ナミのタオルを替えた。


『……』

ナミ「ハァ……ハァ……」

『ごめんね……』


何もしてあげられない…。変わってあげることもできない…。
なんて、無力なんだろうか。まだここで航海を始めて
日は浅いが、力になれた事は何かあるだろうか。

そう考えているうちに自分の無力さに腹が立つ。


ビビ「シエルさん、持ってきたけど…どうするの?」

『何かウイルスに侵されてると思うの。
それが何かはわからないけど……。
ナミ、少し痛いよ、ごめんね』


青紫色の痕の周りを鍼で刺激し、数分放置してから鍼を抜く。

そして痕の周りを少しほぐしながら、
カプリとその痕に噛みついた。


ビビ「なっ!!シエルさん!そんなことして…

もし感染症の病気だったら貴女にまで…!!」


ぷはっと離し、お湯で口を濯ぐ。


『ナミが救えるなら、それでいいよ。
…あ、でも船の進路遅れちゃうか』

ビビ「そんなっ!」


とにかく、大丈夫だから。とビビを宥め、
その後もナミをしばらく看ていた。

…看病は交代ですることになり、一旦ビビに任せて
私は甲板へと出る。


『船の進路は?』

ゾロ「異常なし」

『そう』

ゾロ「…ナミは?」

『まだ全然ダメ。とりあえず手は施したけど…』

ゾロ「そうか」


ダンベルを片手に真っ直ぐ海を見つめたままそう言ったゾロ。

何だかんだで船長を慕い、仲間を第一に考えるこの船は
白ひげ海賊団に似ている。勿論、あれほどまでの
船員は居ないから"仲間殺し"なんてものもないのだろうが…。


『(杞憂しすぎか…、心配事がこうも続くと気分も憂うな…)』


アイツ然り、船然り、アラバスタ然り、ナミ然り…。


『………』

ゾロ「…シエル」

『なに』

ゾロ「聞きてえ事がある」

『…?』

ゾロ「前に"海鴉"っつったな」

『あぁ…そう言われてるみたい』


パサッとフードを被り、ニヤリと笑えばゾロも少し口角を上げた。


ゾロ「前に少し耳に入れた事がある。"剣士"である海鴉はあの王下七武海、鷹の目の強さに引かず劣らず、

"強い"と…」

『…誰の噂よソレ…』


まァ、そりゃ確かに鷹の目と剣を交えたことはあるけど。
と答えると少し喰い気味になるゾロ。


『剣を交えたって言っても、修行の一環で…』

ゾロ「鷹の目と修行?」

『いや、別に鷹の目と師弟関係ではないよ。

私の師匠はまた別の人』

ゾロ「ニヤ)ソイツも気になる」

『もう、そんなに聞き出して何が楽しいのよ』

ゾロ「お前が仲間じゃなけりゃ確実に闘いを申し出たな、俺ァ」

『ったく…単純か!』


そんな話をしていると、ルフィがシエルー!と船尾から私を呼ぶ。


ゾロ「逃げる気か」

『嫌な言い方!違いますー!』

ゾロ「ちっ…」

ルフィ「おーーい!!シエルーーー!!!!」

『はーーい!!行く!!』


ナミの容態を気にしつつ日が落ちる前に船を進め、
夜になると、一旦船を停めることになった。
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