未来航海

□Episode1~クロッキー島編
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炎のような赤に、空や海を連想させるような青、
太陽に照らされキラキラと輝く白に、
自然と一体化してるような緑…。

オブジェにも思える家々が立ち並び、
活気溢れるこの島は"画家の住処"とも呼ばれる《クロッキー島》

私がこの島に来て1年。……出られずに居た。


「今日もありがとうね、シエルちゃん」

『いえいえ、何てことないですよ』


鍼を使い患者の症状に合った刺激を送って
様々な作用を与える療法。
所謂、鍼灸師である私は住民にとって
万能な"医者"であった。


「よかったらお昼食べていく?」

『えっ、いいんですか!是非!お邪魔します!』

「はっはっはっ、相変わらず
食べ物には目がないねえ!」

『ははは、すみませんなんか…』

「いやいや、代金の代わりだから、
遠慮せずに食ってけ食ってけ!」


半年前の"事件"さえなかったら、私はこの島に1年も
滞在する事もなく、自分自身の為に航海していたのに。

なんて、何百回思ったことだろうか。
島の住民の"赦し"と"優しさ"が、ある意味私の鎖であり、
ここに引き止めているのである。
その上、"事件"から"神"が居るとまで云われてしまえば、
尚この島を出ることが出来ない。

どうしたものか。と、答えの出ないこの悩みは
誰に言えるわけでもなく、ただ、
心の中で留めるだけだった。


『…久々に、帰りたい…』


最後に帰ったのは半年前か。
手紙で現状報告だってしているが、
助けを求めるわけでもない。

助けが来たからと言ってきっと、
どうこうできる訳でもないし。


『はぁ……』

「どうしたんだい?何かあったか?」

『あぁ、いえ、大丈夫です』


ははは、と愛想笑いでその場を誤魔化し、
出してもらったご飯を口にすれば
私も彼らを"赦して"しまうのである。
単純だな。とは思うがやはり、
人間の三大欲求でもある食欲には勝てない。

…うーん、今日もまた
日常を過ごすのだろうな………。


『ご馳走様でした!』

「いーえ!いつも良い食べっぷりで
私も嬉しいわ!またお願いね」

『はい、いつでも』


家を出て、広場にある仕事場(と言ってもテントを張り、
その下で簡易ベッドを置いてるだけだが)
に戻ると、たちまち集まる人人人…。


「シエルちゃん!今日もお願いしていいかい!」

『どうぞ、寝転んでください』


ニコリと微笑み鍼治療を施していると、
人だかりから声が飛んできた。


「すっげー!!なんだありゃ!!!」

「おいルフィ!静かにしろ!」

「バカ!目立っちゃうでしょ!」

『(え……あれって……)』


視線を声の方へ向けると、隙間から見えたのは
バンダナを巻きゴーグルを頭に付ける少年に、
オレンジ髪の少女、そして………。


「まァいいじゃねえか!」

「「よくねえよ/ないわよ!!!」」


海賊旗のトレードマークでもある、
麦わら帽子を被った少年…。


『モンキー・D・ルフィ……!』

「お、おい!!お前ら何者だ!!」

「観光客か…?」

「おい!コイツ…ついこの間手配書が出された…
3千万の賞金首、モンキー・D・ルフィ!!」


ザワッと一瞬で騒がしくなる広場。

なんというか…やっぱり兄弟なんだな。アレと。


「3千万の悪党……!」

「誰か海軍に連絡を!!」


と、住民が飛び出そうとする。

待て待て、そんなことされたら私も困るから…!!!


『待って!!!!!』


広場に自分の声が響き渡った。
勿論、視線は私に集まる。

…麦わら一味の視線も。


『彼らは…悪党なんかじゃない…!』

「えっ?」

「な、何を言い出すんだシエルちゃん!!」

『こいつらは私が見張る。みんなは何もしないで』

「だ、だが…」

『私には、彼らがこの島を乗っ取りに
来たようには思えないし、悪事を働こうとしてる
ようにも見えない。それに、もし何かあったら…

私が何とかするから』

「…まぁ…シエルちゃんがそう言うなら……」

『とにかく、みんなは何もしないで。
今日はもう終わり。帰ります』

「あ、ありがとうよ!シエルちゃん!」


住民が散らばり、家に入っていくと
広場には私と麦わら一味だけになった。
仲間の2人が怯える中、麦わらだけは腕を組み
ニシシと笑っている。


『別に、島を乗っ取ろうなんて思って
上陸したんじゃないでしょう?』

ルフィ「ああ!用があってたまたま上陸しただけだ!」

『そう、それだけなら別にいいの』

ルフィ「おお!なんだよ!お前話のわかるヤツだな!」

「乗せられるなァ!」

「そんな簡単に海賊の言葉を信じる奴がいるかァ!!!」


鍼やらベッドやら片付けをしながら
話していると騒ぐ2人の言葉を無視して、
すぐ近くまで来ていた麦わら。

なんて言うか…人懐っこいのか…能天気なのか……
自分の立場がわかっているのかこの男は………。
チラッと顔を見ればバッチリ目が合いまた笑った。

…笑顔もソックリだ。眩しくて、
太陽みたいで、どこか熱いモノを持ってる。


『……よく知ってる』

ルフィ「ん?」

『…最近よく暴れてるよね。誰だっけ、
魚人族のアーロン(?)も倒しちゃったんでしょう?』

ルフィ「ムカつくからぶっ飛ばしただけだ!」

『……!!ふふっ、あははっ!』


想像以上に面白い奴。

これが麦わらの第一印象。


ルフィ「?」

「ちょっとルフィ!行くわよ!
そいつ何者かわかんないし!」

「そ、そうだルフィ!危ねェって!」


かなり距離を取る2人を見て
ははは!と豪快に笑う麦わら。


ルフィ「何言ってんだお前ら!
コイツ、悪い奴じゃねえよ!」

「それでも"見張る"なんて言われて
安心できるわけないでしょう!?
さっさと船に戻るわよ!」

ルフィ「えー…俺、お前気に入ったんだけどなー!」

『………え?』


思わぬ言葉に一瞬フリーズ。

前にも似たようなことあったっけ。
言わずともわかるだろう?と言われ、
私は断る理由もなかったので
入ったが今回はまた別である。

麦わらが次に紡ぐ言葉は
聞いてはいけないと、本能的に感じた。


『あっ、わ、わた……!』


逃げようと、私が口を開いた時―――。


ルフィ「お前…俺の仲間になれ!」
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