未来航海

□Overture
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『ねぇ、どうして…そんなにも、
必死に生きようと思えるの』

「……そうだな…。いつか……

海へ出たいからかな…」

『それだけ?』

「ダメ?海って、"男のロマン"だと思うんだけどな」


幼い少年と少女は、暗く狭い場所で身を寄せ合い、
ヒソヒソと話していた。


「俺ね、海を見たのは"ここ"に来るまでの
1回だけなんだけど、海が大好きなんだ」

『…どうして?』

「海はさ、透き通った青がずっと先まで
広がっているんだ。水面は優しく揺れててね、
潮風がすごく気持ちよくて、海の中にはたくさん綺麗な魚もいて、
海底には"人魚"や"魚人"って云われる人達も居て…。

海は………とても"深い"んだ」

『海が深いのは当たり前じゃないの?』

「ははっ、そういう意味じゃないんだよ」

『?』

「まあ、シエルもいつかわかるよ、
海へ出たら……」

『うん!!』


クスクスと笑う少年と少女は、
とても…幸せそうだった。


「実はね、俺の見てる世界には……

…"色"がないんだよ」

『??白黒なの………?』

「うん。けど、"ここ"自体が"色"なんて
ないでしょ?だから不便だと思ったことはないんだ」

『…………』

「昔、ある人が言ってた。"海"は奇跡を起こしてくれるって。
だから…俺は海へ出て、長い長い旅の中で
自分の"色"を取り戻したいんだ」

『………だったら、私もそれ、手伝うよ』

「えっ?」


少女は少年の手をギュッと握ると、
天真な笑みで言葉を紡いだ。


『見えるまで私が隣で教えてあげる。
私やみんなが見てる"色"を!
私が……

キルトの目になる!』

「シエル………」

「おい!ガキが居るぞ!!」

「『!!!』」

「シエル、早く奥へ!!」

『キルトも…!!』

「俺はいいから!…大丈夫、きっといつもの"アレ"だよ」

『けどっ…「いいから!!」………っ!』


少女は物陰に隠れ覗き込んでは少年を待っていた。

――だが、少年は来ることはなかった。

少女はゆっくり、ゆっくりと"本来の場所"へ
戻ろうとした時、少年の声を聞いた。


「うわぁあぁああ!!!!」

『……っ!!!!』


その少年は…少女の前で殺された。


「ガキは始末しました…………様……」

「ご苦労だった。もう一人は?」

「それがまだ見つからず……」

「さっさと見つけろ…もう用済みだ…。
確保したら………


"コロセ"」

『……………』


―――これは…7年程前に起きた……

…ある"悲劇"である。
 

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