小説エゴイストA

□だって笑って欲しいから
1ページ/12ページ



「野分、着替え持って来たぞ」


「あ、ヒロさん。いつもありがとうございます」


「………………」


「ヒロさん?」


「いや、何でもない。じゃあ仕事がんばれよ」


「はい、気を付けて帰って下さいね」



………やっぱり


何だか野分の様子が変だ。

無理して笑ってる、つーか
強がってる、つーか…



「あら、草間先生の…」


「あ、お疲れ様です」



野分に何度か着替えを持ってきているうちに
あの津森先輩以外に何人か顔見知りができて…


このベテランっぽい看護師さんとは挨拶をするまでになった。


「草間先生には会えました?」


「あ、はい。さっき会えました」


「あぁ良かった。
それにしてもこんな不規則な人が同居人じゃ
一緒に住んでる感じしないでしょ?」


「はは、そうですね」


「草間先生はウチの子とあまり歳が変わらないから色々心配しちゃうのよね」


きっと野分だけじゃなくいろんな人たちに対して面倒見が良いんだろうな。



「まだ元気がないように見えるし」



やっぱり。


「あの、俺もさっき野…草間先生と会った時に何かいつもと違う感じがしたんですけど…
何かあったんですか?」


「実は草間先生が担当していた小学生の男の子が別の病院に移ったのよ。
ご両親がいつの間にかいろんな病院をまわって話を取り付けてきちゃって…

『明日退院させて下さい』っていきなり言ってきて
こっち側の話も聞かずに本当に次の日連れてっちゃった。

草間先生の責任じゃないのに
研修医だから信用されなかったんじゃないかと思ってるみたいで…」


「…それは担当が誰であってもそうなったんじゃ」


「私もそう思うのよ。
前々からそういう節があったから、
誰が担当しても同じ事だったと思うんだけど草間先生は真面目だから…

今度さり気なく励ましてあげて」




さり気なく励ます………


どうしたらいいんだ?
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ