拍手お礼文SS
□拍手お礼文4
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野分が意味なくそわそわしだしたら、
それはあの人が来ているサイン。
そして野分がここにいるという事は、
あの人が一人でいる証拠。
野分があの人に会いに行く数分前は俺の時間だ。
いつも野分を待っている待ち合わせ場所の中庭。
何気ない振りをして書き物をしているけど、
あの不自然な顔を上げるタイミングや手の動き。
二人揃ってバレバレなんだよなぁ。
あれで二人とも周りにバレてないと思ってるなんて尊敬するレベルだ。
「あ、お疲れ様です上條さん!」
なんて偶然を装う俺もか。
「……お疲れ様です」
相変わらず警戒心が全開だ。
「今日は暖かいですねー☆」
「………そうですね」
会話を続ける気はありませんよとばかりに
書き物をしていたノートに視線を落とす。
「…あれ」
カチカチとボールペンの先端をノートに当てながら怪訝な声を出した。
どうやらインク切れらしい。
すかさず白衣のポケットからボールペンを渡す。
「良かったらどーぞ」
「あ、ありがとうございます」
素直に受け取ってくれた。
2、3行ほどノートに書き足した後
「ありがとうございました」
と返されるが
「いいです、それあげますよ」
「え、でも」
「俺にはこの通りペンがたくさんあるし、
また何かしら書き足したい事があるかもしれないでしょ?
使って下さい」
突き返されないように2、3歩下がりながら言う。
「さて、じゃあ俺は仕事に戻りますねー」
「あ、はい、あの、これありがとうございます」
インクが切れて捨てられるまでは俺の物を使ってくれる。
こんな事で喜ぶなんて子供みてーだ。
ボールペンじゃなくてシャーペンにすれば良かった。
こんな事で悔やむなんて初恋みてーだ。