異小説

□王子と悪魔
1ページ/12ページ


―これは悪魔や魔女、

人間と人間以外の種族が共存していた頃のお話―










「おいノワキ。また、あの王子を見てるのか」


「兄上…」


「あの容姿だし、気に入るのはわかるけどよー」


「けして容姿だけで気に入ったわけではありません」


「何にしても止めとけ、って何度も言ってるだろ?

俺らの容姿を見てみろ。
尖った耳に牙、コウモリみてーな翼に魔術まで使えるんだぜ。

悪魔は人間とは一緒になれない。

その時は死ぬ時だと言われてるだろーが」




「……わかってます。
だから見てるだけです」




兄上には見てるだけと言ったが一度だけあの王子と関わった事がある。


あれは1ヶ月前だ。


真っ暗な夜道で盗賊に襲われている王子を見かけた。


王子が乗っていたと思われる白馬はケガをしているらしく倒れていて動かない。



いつもはあまり気に止めない。
人間は絶えず争うものだと聞いているし人間と深く関わるとロクな事がない。


魔女狩りやエクソシスト、
こっちが善意で力を貸しても向こうからすれば恐怖なのだ。



だから、深く関わってはいけない―





はずだった。


王子を見た瞬間、一目で惹かれてしまった。



そして、あの涙。


思わず王子の前に立ち、
盗賊に向かって魔術を唱える。


盗賊たちは蛙になり草むらに逃げていった。


王子を見ると瞬きもせず目を見開き、立ち尽くしている。
悪魔を見たのは初めてなのだろう。


ケガがない事を確認し、ハンカチを渡す。
そしてそのまま空へ―



「待てよ!」



思わず振り返る。


「その…
お前は悪魔なのか?」


「そうですよ」


「悪魔は悪い奴だと聞いている。さっきの盗賊は…」

「朝には人間に戻ります。
今夜の記憶はないでしょうが。殺めるのは苦手なんです」


それだけ言い残し、王子が何か言う前に漆黒の闇の空へと姿を消した。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ