小説エゴイスト@

□ヘアピン
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前髪を切りそびれて10日。



さすがに気になってきた。


講義中も論文作成中も読書中も無意識に前髪をかき上げている。


(自分で切るにもなぁ。ハサミは野分が持ってるし…
あれからすれ違ってて会えてないけどちゃんと飯食ってんのかな…
今日は早く帰れるかも、ってメールきたけど本当かよ…)



そんな事を思いながらまた前髪を触っていたらしい。



「かーみーじょー」



妙にテンションが高い宮城教授がいつの間にか入ってきていて俺の顔を覗き込んできた。



「……何ですか?教授。てかいつからそこに?」


「ヒドイなぁ上條は。さっきからずっといたぞ!
上條が前髪を人差し指に絡めてくるくるしながら物思いに耽ってる時から」


「べっ、別に物思いとか」


「それはそうと上條さー、髪伸びたよな」


「あ、やっぱり教授もそう思います?」


「講義中の髪を触る仕草が(セクシーすぎて)気になってしかたないと苦情がきてるぞ」


「えっ!苦情??」


「みんな(その仕草に釘付けで)講義に集中できないそうだ」




マジかよ…


 
「そこで、これは女子生徒からのプレゼントだ」



そう言いながら教授から小さな袋を渡された。


中を開けると……


「ヘアピン?」


女子が使うヘアピンが二つ。
根本に赤いリボンと黄色いリボンがそれぞれ付いている。



「……教授、これは?」


「おっ、ずいぶんと可愛いじゃねーか!上條なら絶対似合うぞ」


「嬉しくないです!」


ヴー、ヴー、ヴー…


カバンの中の携帯を探る。


『さっきメールした通り早く帰れます。早く逢いたいです』



「何だ?彼氏か?」



「かっ!?別に…そんな…」



「隠さなくてもいいぞ。つか隠れてないし。いいねぇいつまでもラブラブで」


「……教授こそ。さっき図書室の前を通ったら『キレイな男の子がいる』って人だかりができてましたよ」


「…っ」


「お先に失礼します。」



赤面している宮城教授を後に大学を出た。
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