道化の限界
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7月のとても暑い日にスポーツ大会は開かれた。
私のクラスは一応成績上位のクラスというせいか文化部が多くなりやすく
運動部といっていいのか微妙な私も二つ参加しなければいけなかった。
「空、後ろ!」
ドッジボールを競技中仲間の声に振り向くとボールが飛んできていた。
そのボールをキャッチして敵チームに投げつけて、アウト。
「きゃーー!いいよーー!がんばれーー!!」
うん、気持ちがいい。頼られるのは大好きだ。
調子に乗って投げまくった。敵チーム殲滅…初戦突破。
みんなとハイタッチをしてきゃいきゃい騒いだ。
「空やるねえ、超かっこよかった!」
「えへへ、まあ私だからねえ。」
「お、うざいかなあ〜でも許す!」
むっちゃ楽しかった。
次はバスケの助っ人だった。
バスケ部の子が居るからその子に花を持たせないとなあ。
とか考えながら整列。試合が始まった。
当初の作戦通り、バスケ部の子がパスを出しやすい位置に待機してパスをもらって、またパスしてゴールしてもらおう作戦を実行した。
なかなかいい感じで私も褒められるしバスケ部の子は得点を決めるからもっと褒められていた。
にしてもすごいシュートの正確さ、さすがバスケ部。
しかし決めたら逆転のシュートが外れかけた…のを見た瞬間身体が動き、リバウンドを受け止めシュートを決めてしまった。
「いいぞー柊木!!」
「逆転!」
「ナイスシュート!!」
そんな男子の声が聞こえる。…けれどまずい。
バスケ部の子の目を見た。怒りを含んだ冷たい光がその目に浮かんでいた。
その目を見たら恐怖で身体が竦んだ。
嫌だ。排除の対象になるのは。嫌だ。嫌だ。特別な感情…悪意なんか私は耐えられない。
「ゆう、どう!授業の時教えてもらったやつ完璧だったしょ!」
道化を発動させた。浮かれて馬鹿な奴の真似をした。
瞬間その子の目はふっと緩んで明るい光が浮かんだ。
「浮かれてんなバカ柊木、もっと点決めるよ!」
「いいじゃん、初めて決まったんだからもっと褒めろ〜」
「バーカ」
そう言って笑ってハイタッチをした。そしてその子はボールに向かって走って行く。
その背中を見て呼吸がやっと普通にできた。冷汗は止まった。
…大丈夫だ、さあがんばる。
その後のドッジボールの二回戦は疲れたと言い訳して、これ以上目立つと怖いから一回休みにすることにした。
「がんばれー!」
外野から適当に応援する。
その時急にぞわっとして右を見上げると、担任のリヴァイ先生が居た。
「よう、大活躍じゃねーか。」
冷たい目でくすりともせずそんなことを言われた。
私の道化を仮面を揶揄しているのだろうか、非難をしているのだろうか。
どうしようもない脅えが身体を固くさせた。
この人には私の道化がばれている。きっと嘘臭くて薄っぺらい何も無い私を汚く、醜く、憎悪の対象として見ているだろう。
そう考えるとどう答えれば分からなかった。
「せん、せい。」
声が掠れた。
ああ、道化が剥がれる。汚い私をまた見られてしまう。
…どうしてリヴァイ先生には私の道化が通用しないんだろう。
「声大丈夫か。」
「あ、はい。少し応援しすぎました。
ほら先生も、うちのクラス応援してくださいよ。」
オート機能の道化が姿を現す。見破られていると分かっていても言葉が止まらない。
「俺に応援されて喜ぶか?」
「当たり前ですよ!よ、イケメン教師!」
そんな風にクラスの子達が騒いでいたのを思い出した。
「…馬鹿が。」
その一言が突き刺さった。耳鳴りが、する。体温が一気に下がった。
道化が恥ずかしい。消えてしまいたい。
「おいお前ら!!上じゃなくて足ねらえ!!下手なやつにぶつけろ!!上手い奴にぶつけて外野にさせると面倒だぞ!!」
「アドバイスがえげつない!!」
思わずツッコミんでしまった。この人乗っかってきた!!意外!!
「馬鹿を言え、勝負は勝つものだ。何がなんでも勝て。どんな手を使ってでも。」
「教職の人の言葉とは思えないっすわ…。」
「うるせえ。…いいか絶対勝てよ。
おい!!右だ!!逃げろ!!」
一緒に横で応援するリヴァイ先生が、一体どんな人なのか一瞬で分からなくなった。
この人は一体どんな人なんだろう。
そんことを思いながら一緒に応援をして、私のクラスは見事勝利し三回戦に進出。
…勝利の瞬間先生と同じタイミングでガッツポーズをしたのをあとでみんなにいじられた。
スポーツ大会はドッジで優勝。バスケは惜しくも準優勝だった。
他の競技もそこそこの成績で、スポーツ大会委員長としては熱中症患者が出なかったことが一番良かった。
大会はは私、委員長の当たり障りのない挨拶で閉幕した。