狭間

□六話
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「ただいまですよー」

扉を閉める。いつもなら返事があるんだけど今日はない。
おかしいな、居ないのかな?でも靴あるしなぁ。
部屋に入り疑問が解けた。リヴァイさんは眠っていた。
器用にソファに座りながら腕を組んだまま眠っている。
相変わらずサラサラの髪と、睫毛の影がかっこよさを倍増させている。
ほんとかっこいいなこの人。
私のヒモとかお父さんとか誤解されてる異世界から来た私の好きな人。
好きな人。
…こんな所で寝てるなんて相当疲れてるんだなあ。こんなとこで寝たら風邪引いちゃうんじゃないかな。
不安になり寝室から毛布と枕を持ってきた。
リヴァイさんの身体を頭をぶつけないようにソファにゆっくりと倒して枕に頭をのせて毛布をかけた。
私今好きな人押し倒しちゃった、触っちゃったよ、ふう!
なんだか運動会でテンションが上がったらしくやけに興奮して、一人でひとしきりにやついた。
というか警戒の強いリヴァイさんがこんなことをしても起きないなんてやっぱり相当疲れてる。
疲れが寝て少しでもとれるといいな。
私もソファに背中を預けて座り込んだ。
後ろから聞こえる寝息が心地いい。
…今日はお鍋にしようかな。
なにも考えずにボーっとした後スーパーに出かけた。

「…いってきます。」


側にあった熱源が無くなったような感覚を覚えて目を覚ました。
一瞬自分がどこに居るのか分からなかった。
頭の下には枕があり、毛布かかけられていた。きっと悠がかけたのだろう。
ああ運動会があって…帰ってきて寝ちまったのか。
思考がハッキリとしない。さすがに疲れているようだ。
こんなに疲れたのは調査兵団に居た頃でも少ない。

調査兵団、か。兵団のことを、巨人に殺されていった部下の顔を、誓いを一日たりとも忘れた事は無い。
だが…俺は果たして積極的に帰る術を探しているのだろうか。
鍵は悠にある。悠が世界の境界を壊して俺をここに連れてきた、らしい。
もし積極的だと言うのならあのアロハ野郎と悠をどんな手を使ってでも問い詰めるだろう。
問い詰めるべきだろう。
なぜ俺はそれをしないのか…理由は考えたくない。
もし、今、ここに帰る道が現れたら俺は何も迷わず帰れるだろうか。
俺を好きだと勘違いするほど依存している孤独で哀れな、あまりにも幼く笑うガキを置いて帰れるだろうか。
答えは出したくない。だが、微かに感じた痛みが答えとなってしまった。
俺は卑怯だ。
部下への誓いも投げ出したい。そう思ってしまう時がある。
悠の好意も…あいつの勘違いだが勘違いさせたのは紛れもなく俺だ。
俺を好きになった責任を悠に押し付けている。
悠は俺の世界についてくると言った。それは迷惑だ。
それに俺の居る世界は危険すぎる。この世界に居る方がまだましだ。
あいつの命を狙う奴らさえ殺してしまえは悠はこの世界で生きていける。
なぜ、それをしない…?
それは俺が悠と離れがたく思っているからじゃないのか…?

「クソ…。」

またソファに倒れ込み目を閉じた。


「ただいまー。」

また返答がなかった。リヴァイさんはお休み中なんだろう。
ひっそりと台所に向かってお鍋の準備を始めた。
白菜と大根とにんじんと水菜と鶏肉と豚肉と糸蒟蒻ともち入り巾着。
ぬふふ、最高のラインナップ。
出汁をとっている間に材料を切って皿に並べた。
…そろそろリヴァイさん起こさなきゃ。
せっかく寝て休んでるリヴァイさんを起こすのは心苦しいけど。
とにかく準備を終わらせよう。机の上にできるだけ静かに鍋やガスコンロを置いた。
全ての準備が終わってもまだリヴァイさんは寝ていた。
そーっと、ソファに近づいた。ずっと見てても飽きないくらいかっこいい顔で寝ていた。
起こさなきゃ…手を伸ばして肩に触れようと思ったけどなんだかもったいなくて起こせなくて
肩に手を伸ばしたり、ひっこめたりしていた。
よし次こそ起こす…手を伸ばした。ら、手首を掴まれた。

「目の前で蝿みてえに手を動かすな、目障りだ。」

「失礼しました…。起きてたんですね」

「ああ。」

「私に起こしてもらいたくて寝たふりしてたんですねぇ。かーわーいーい゛、痛いんですが!」

手首を思いっきり握り締められた。マジで締まってる。

「お前がばかなことを言うからだ。はあ…、最近は賢くなったと思ってたのによ。」

「私も久しぶりにこんなやりとりしたなって思いました。
とにかくご飯ですよ、お鍋ですよ。」

リヴァイさんは小さく息を吐くと私の手を離し体を起こした。

「…食べる。」

「ええ、そうしましょう。」

私はその日初めてお鍋を囲んだ。
少しだけ家族が私が居ない時にみんなでお鍋を食べていたのを思い出して寂しくなった。
でも初めて一緒にお鍋を食べた人がリヴァイさんでよかったと思うとどうでもよくなった。
美味しかった。
きっとこれが幸せなんだろうか。

「にやついてねえでちゃんと食え。」

そう言って私の器に肉を入れてくれた。

「なに更ににやついてんだ馬鹿。」

「にやついてませんー笑ってるんですー。」

「語尾を伸ばすな。余計馬鹿っぽくなるぞ。」

うん、きっとこれが幸せ。
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