狭間

□二話
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帰りは悠曰く馬の進化形、ばすに乗った。
それは特定のルートを走っており、時々指定の場所に止まりその指定の場所で乗ったり降りたりできるらしい。
全く本当に便利だ。…俺たちの世界にもこれくらいの文明のレベルがあれば巨人なんて敵ではないのにな。
考えてもしかたがないことだと分かっているが苛立ちが募る。
特に意味は無く隣に立つ悠を見下ろした。
…このガキは一体何者だ。
値段を気にせず物を買う資金力。
そして…視線を下にずらすと手に持った買い物袋が見える。その買い物袋は俺の持っている量と変わらねえ。10kgはあるだろう。
さらに昨日は俺を部屋まで一人で担いできたらしい、立体起動装置つきでだ。
どんな怪力の持ち主だ。
すると、悠が俺を見上げた。視線に気がついたようだ。
どうしたのか、という顔で俺を見る。

「荷物、重いだろ。よこせ」

「いえいえこれくらいって、あ!」

強引に袋を奪った。

「……リヴァイさん、素敵です。」

キラキラとガキ特有の顔で俺を見た。
ずいぶんと楽に悠の尊敬を手に入れられたようだ。

「こんなこと男なら当たり前だ」

「…当たり前なんかじゃ、ないですよ」

そう下を向いてから呟き、ありがとうございます、とこっちを見て笑った。
ガキは嫌いだが、こいつは悪くねえがもな。

…悪くねぇと思うのは何度目だ。

相当俺はこのガキを気に入っているようだ。



リヴァイさんはすごく優しい人だと思う。
横に歩くリヴァイさんをみてそう思った。…その人の手には私よりすごくたくさんの荷物。
私の分の荷物を持ってくれたのだ。
しかもその行為を「当たり前」と言った。
優しさは当たり前なんかじゃない、それはすごくよく知っているから、本当に優しい人だ、と思う。
怖いけど、優しい人だ。きっと

部屋に着いたらなんと、リヴァイさんはすぐに割烹着、三角巾、ゴム手袋を着た。
あまりの早着替えに私はぽかんと見つめてしまった。

「見てねえでその荷物片付けたらお前も着替えろ、分かったら早くしろ!
俺はこれ以上この汚ぇ空間に居る気はない!」

びっくりするほど目が本気で怖い。
…優しい、人?

「そんな言うほど汚いですかね〜」

「おい、そんなに言うならこっちに来い」

そう言われ窓に近づくとリヴァイさんは窓枠を指でなぞった。
その手には微かに埃が付着していた。
…まさか、これで汚いと?

「お前にはこれが見えねえのか、あん?この埃はなんだ。お前の目は腐ってるのか」

…優しい、人………??
リヴァイさんは顔の微かに覗いている目で私を睨んでいる。

「姑ですかあなたは!そんなことホントにやる人初めて見ましたよ、もう!
分かりました分かりました、すぐやりますよ」

そう言ってリヴァイさんに背を向けて荷物を片付けに向かった。
後ろから、分かればいいというぼそっとした怖い声が聞こえた。
あぁ分かりましたよ。あの人は潔癖症だ。間違いない。
そして内心、自分の下した優しい人と言う判断に疑問を抱いた。

リヴァイさんが満足する頃には、もう部屋はピカピカになっていた。もうそれは一流ホテルと名乗ってもいいレベルだ。
…大掃除でもこんなにはしない。
それから買ってきたお昼を食べた。私もリヴァイさんも沈黙が気まずいと感じる人ではないようなので静かに食べた。
静かにしていると段々眠くなってきてしまった。頭が船を漕いでいるのを感じて、一瞬だけハッと意識がはっきりする。
これはまずいかもしれない。

「すいません、ちょっと寝させてもらいますね…テレビとか本とか何でも勝手に見ていいのでゆっくりしててください」

「よくお前は出会って一日も経ってない人間を信用できるな。警戒心が足りないんじゃねぇか」

そうふかふかの椅子の上でこっちを見ながら言った。

「心配してくれてるんですか?
…へへへ、リヴァイさんだから信用してるんですよ。他は違います。じゃあおやすみなさい」

そういうとリヴァイさんは少し驚いたような顔をした。
私はもう眠くてまともに頭が動いていなかった。
昨日から夜リヴァイさんの容態を見ていて一睡もしてない。おまけに仕事も、あったし…。
そして今日もある…。
ついてないな、そう思いながら和室に敷いた布団に飛び込み、寝た。
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